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尊敬するソーシャルイノベーター、2人と。

2017年6月23日

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ヘルスケアビジネスモデルイノベーション2017。
尊敬する2人のソーシャルイノベーターの先生方とご一緒させていただきました。
狭間先生のお話をお聞きしたのは実は初めてですが、実践と検証に基づく圧巻の講演でした。特に「51年サイクルのサインカーブ」、導入期のキーワードは「低収益性と危険性」というあたりは目からウロコ、「顧客は誰か?」という発想には共感しました。速攻で『薬局マネジメント3.0』ポチしました。
中野先生のお話は3回目でしたが、幸手モデルと「とねっと」の着実な深化を感じました。僕も最近ようやく中野先生のおっしゃる「ケアする社会」の意味がぼんやりとわかってきたところです。そのうえで、今回もまた新しい気づきをいただきました。
僕がいただいたテーマは「日本の高齢化と在宅医療におけるビジネスモデル」。
悠翔会は業界では急成長株と思われています。
しかし運営的に特別なことはしていません。
地域のニーズに応じて、日々目の前の患者さんを丁寧に診療しながら、診療規模に応じて組織管理体制と業務プラットフォームを段階的に更新する。
強いて言うならば、変化を恐れないこと、そしてクライアントとして「患者」だけでなく「地域」と「費用負担者」を意識しているということでしょうか。

悠翔会はなぜ規模を大きくしたのか、とよく聞かれます。
それは、医療機関としての持続可能性と生産性を確保したいと思ったからです。
特に在宅医療に求められる「24時間対応」を個人に依存することに強い不安定さを感じていました。これは医療者の生産性、すなわち患者に提供できる時間あたりの価値を大きく犠牲にすることも体感してきました。
主治医と患者の信頼関係を基軸に、主治医個人に依存しないチーム在宅医療を実現する。医師のライフワークバランスを確立し、チームで提供できる医療の価値を最大化し、そして患者満足度を犠牲にしない。そんな新しい在宅医療のあり方を模索してきた10年間でした。

しかし、理想の医療と理想の経営は時に対立します。
そんな時は、常に以下の3つを意識するようにしてきました。

①医療はビジネスではない、公共事業である。
②医療は顧客にとって「やむを得ない選択肢」である。
③医療の究極の目的は「患者を減らす」ことである。

公共事業である以上、医療そのもので利益を追求すべきではありません。しかし、そのコストパフォーマンスは追求すべきです。これはサービスとしての競争力を高めるとともに、行政の相対的費用負担を軽減します。この課題解決と業務効率化にはビジネスの視点が重要です。
「患者を減らす」という選択は、医療機関経営者にとっては考えにくいかもしれませんが、後期高齢者の激増する首都圏においては、医療リソースの不足を考えても、地域における人口あたりの患者(医療依存者)を減らす努力をしなければなりません。また、入院を減らす、無駄な検査を減らすなど、一人あたりの医療への依存度も減らす努力をしなければなりません。予防医学と自立支援・生活モデルの視点が重要になります。
どこにイノベーションが起こせるのか。
僕らはICTをフル活用しています。またAIの活用も進めています。
日常業務は改善しますが、これらは現場に「本物の革新」をもたらすのでしょうか。

僕は、在宅医療領域においてイノベーションがあるとすれば、それは「考え方」だろう、と思います。
1つは、医療機関経営者が「自分の患者」ではなく「地域の患者」という発想を持つこと。
自分のクリニックに患者を囲い込むことで、患者に提供できる価値の上限はおのずと低くなります。
主治医はあくまでその患者の主たるインターフェイス。地域全体のリソースを統合し、患者にフレキシブルに提供できる体制を作れれば、地域医療全体の生産性が大きく向上するように思います。

そしてもう1つは「健康」に対する価値観の変換。
「健康寿命」にしても「自立支援介護」にしても、心身の機能や障害にのみフォーカスされています。しかし、私たちは人生のどこかで必ず治らない病気や障害を負うのです。元気なうちに突然死しない限りは、健康寿命と平均寿命は一致しません。
しかし、心身に機能障害があっても、それをその人の個性の一部として受け入れることができれば、その人の目指す生活に必要な環境を整え、最期まで「健康な人生」を目指すことができます。医療者も患者も生活モデル、健康の概念をICFにしっかりシフトできれば、医療や介護の位置づけそのものも革新的に変化していくと思うのです。

真野先生は、イノベーションとは、理想と現実のギャップを埋めることだ、とおっしゃいました。
医療の現場には無数のニーズがあります。
ビジネスの種はいくらでもありますが、イノベーションを目指すためには、まずは理想を明確化することから始めなければならないのだと思いました。
高齢化という大きな変化の波が押し寄せる中、この国は、そして僕ら一人ひとりがどのような社会を目指すのか。
改めて振り返る機会となりました。

佐々木淳
医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
プロフィール
筑波大学医学専門学群、東京大学大学院博士課程卒業。三井記念病院、医療法人社団 哲仁会 井口病院副院長等を経て、24時間対応の在宅総合診療を提供する医療法人社団 悠翔会を設立。