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『不安な個人、立ちすくむ国家』

2017年6月19日

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[参考:外部リンク]経産省次官・若手PJ『不安な個人、立ちすくむ国家』 

経済産業省の菅原事務次官と30人の若手官僚によるプロジェクトチームがまとめた報告書。正視したくない現実を突き付けられるかのようなタイトルには「モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか」という挑戦的な副題がつけられている。
夕刻の霞ヶ関で開催された「立ちすくむ国家ワークショップ」には、経産省の若手官僚11名が参加。最初にメンバーの1人である経産省秘書課山本聡一氏からは、この報告書がまとめられた経緯について語られた。
菅原事務次官の若手官僚に対する問題意識。日常業務に追われ、目線を上げて仕事に取り組むことができていないという現状。若手官僚たちも、経済という大きな課題に取り組みつつも、個人の不安に寄り添う仕事ができていないということを日々実感しており、このままじゃいけないという問題意識を持っていた。
そして昨年9月にプロジェクトチームが立ち上がる。
データを集めたり、専門家に相談したりしながら、セイフティネット・国際秩序・富の分配などさまざまなテーマの討論が進められた。
そして、この国の危機的な現状認識と、それに対する私たちの価値観を揺さぶるようなかなり踏み込んだ提案が示された。
通常、政策の情報収集を行うのは組織レベルだが、この報告書には個人レベルで非常に強い関心が示され、省庁の一報告書としては異例の100万ダウンロードを超えた。この報告書を受けて、さまざまなレベルで、共感・反感・さまざまな議論が広がっている。
そして、それらを具体的なアクションにつなげていくのが、今回のワークショップの目的。

僕はこの報告書を初めて読んだとき、僕たちが漠然と感じている不安が明瞭にVisualizeされていると感じた。
このような切り口から政策が考えられたことはなかったし、誰もがぼんやりと「こうあるべきじゃないのかなあ」と思っていることも具体的な方向性として示されていた。
元経産官僚の望月優大氏は、ブログで財政制約がどこまで吟味されているのかと指摘していたが、これには、議論のための議論のような虚しさを感じた。財源ありきで考えていたら生産的な議論はできないし、そもそもどのような政策が必要なのかをまず議論すべきなのだ、というのもこの報告書の1つのメッセージなのだと思う。また各省庁の資料の多くは抜け目・逃げ道のない理論展開が行われているが、この報告書の適度な「余白」、「行間」は、議論の呼び水としても適切だったのだろう。いずれにしてもここまで個人レベルで読まれた報告書は他にはないと思う。

ワークショップは以下の3つのテーマに分かれ、さらにその中でサブテーマを決めて、5つ程度のチームに分かれて行われた。

①人生100年、スキルを磨き続けて健康な限り社会参加
②子供や教育に最優先で成長投資
③意欲と能力ある人が公を担う

僕は①のテーマを選択、「『健康な限り』ではなく『健康でなくても』参加できる社会」をサブテーマに提案したが、これは人気がなく(汗)「いきがい」をサブテーマとしたグループに混ぜていただいた。これまで地域包括ケアシステムなどをテーマにディスカッションを重ねているが、切り口が変わると、こうも面白いアイデアが出てくるのか、と新たな気づきがあった。
僕は、結局、健康寿命と平均寿命のギャップ期間をどうポジティブに生き切るか、という部分にフォーカスして考えることになった。議論を煮詰めてチームのプランを考えた先には、個人個人がそれに基づいて何をするか、アクションプランを決めることも求められていた。

自分自身に課した具体的なアクションプランは、「かっこよく生きている高齢者や障害者を通じて、社会の、あるいは当事者自身の中にある偏見や先入観を変える!」こと。かっこよく生きる、とは、自分の人生を自分の意思で選択できること。そのためには、自分自身に対する自信や誇りが必要だし、病気や障害がそのためのハンデにならないようにするのは僕たち在宅医療とケアの仕事。

政策を実現するのは、政府ではない。自分たちなのだ。
政策を作るプロセスに関与できるということは、一人ひとりがこの国の未来に責任を持つ、ということでもあるのだ。
この余白の多い報告書の中に、大きな可塑性を感じた。
まだ読んでない方、ぜひご一読を!

佐々木淳
医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
プロフィール
筑波大学医学専門学群、東京大学大学院博士課程卒業。三井記念病院、医療法人社団 哲仁会 井口病院副院長等を経て、24時間対応の在宅総合診療を提供する医療法人社団 悠翔会を設立。