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単なる数字は「アウトカム」ではない

2017年5月9日

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最近こういった記事が出ました。

[外部リンク:サ高住の事故、1年半で3千件超 半数以上、個室で発生]

全国21万戸のサービス付き高齢者向け住宅で、
この「事故」の数字は多いのでしょうか?
あるいはゼロを目指すべきなのでしょうか?

そもそもこの数字は、条件を整えた「統計」ではありません。
「国が報告すべき事故として、死亡や虐待、窃盗などを例示したため、骨折や薬の配布ミスなどは報告を求めない自治体もあるのが一因だ」と記事にもあります。
従って、この積み上げた数字が、問題とすべき事例の数そのものかどうかも分からないわけです。
さらに、高齢者が住まう、通うのはサ高住だけではありません。介護サービス事業所における同様の集計も行なうべきですが、サ高住に対してと同じように、公的かつ全国的な統計、集計する基準すらも現在はありません。
その中でサ高住に対してのみ言及するのは、バランスを欠いているような気がします。

転倒をゼロにするためには、歩かせなければいい。
食べ物の誤嚥をゼロにするためには、食べさせなければいい。
しかし、ベッドから出ることを禁止すれば廃用症候群が進行し、寝たきりになるのが早まり、QOLの低下はもちろん、新たな疾病リスクを多く抱えることになります。
食事を禁止すれば、口腔機能・咽頭機能は低下し、誤嚥性肺炎のリスクはむしろ高くなるでしょうし、会話などのコミュニケーションも難しくなるでしょう。

生活の中には必ず一定の「リスク」があります。
リスクがゼロの状態は、この世の中に存在しません。
ある種のリスクを軽減すれば、総体的に別のリスクが浮上してきます。
大事なのは「リスクをゼロにする」ということではなく「その人に最適なリスクのバランスを一緒に考えていく」ということなのだと思います。
介護職やご家族は、ケアにおけるリスクの捉え方をいま一度考え直す必要があるのかもしれません。

ケアの真のアウトカムは、その人の幸せ、その人が望む生活・人生を実現できることだと思います。
「転倒しないこと」、「誤嚥しないこと」は、簡易な代用アウトカムに過ぎません。
この仕事が何のためにあるのか、安易に数値目標を追いかけることで、本質を見失わないように気をつけなければならないと思います。
同時にテクノロジーの進化は、本人の選択の自由と安全管理の両立を実現しつつあります。無責任ではない形で、本人本位の自立支援が実現できるよう、ケアも進化を続けなければならないと感じます。
それにしても、こんなに事故を起こしている、けしからん、という論調の記事でなくてよかったと思いました。

佐々木淳
医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
プロフィール
筑波大学医学専門学群、東京大学大学院博士課程卒業。三井記念病院、医療法人社団 哲仁会 井口病院副院長等を経て、24時間対応の在宅総合診療を提供する医療法人社団 悠翔会を設立。