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「聴くこと」が持つ力

2016年12月27日

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Photo By  Minoru Karamatsu

 

孤独をテーマにしたコラムから少し間が空いてしまいましたが、今回はその孤独を解消する対策として弊社が行なっているサービスについてお話できたらと思います。

私どもは、一人暮らし高齢者を主な対象とした会話サービスである「つながりプラス」と、親御さんの自分史作成サービス「親の雑誌」を展開させていただいております。

[外部リンク]つながりプラス
[外部リンク]親の雑誌

弊社の特徴を一言で言うと、「聞き上手」をサービスとして提供していることです。

いわゆる傾聴スキルと言われるものを、より日常会話に特化し、誰でも、どんな状況でもじっくり話を聞ける、という能力として社内で独自のトレーニング方法論を構築してきました。結果として、いわゆるカウンセリングやコーチングと異なる、「世間話コールセンター」として話を聞くというサービス提供が可能となりました。

 おかげさまで、サービス開始後3年がたちますが、お客様からの反応が極めて好評で、継続率が極めて高いことが特徴のサービスとなっております。

 つながりプラスは、基本的に毎週、お電話で担当となったスタッフからお電話をして世間話をするサービスです。最近よく感じることが、お話を定期的に聞くことが、単にその時に話をして楽しいというだけでなく、ご利用者様のお元気に直結したり、時に行動変容を促すことが多々あるということです。

 例えば、以下のようなケースがありました。

ケース 「焼肉」 群馬県 73歳男性 一人暮らし

 奥様を10年前に亡くされ、群馬県高崎市に一人暮らし。工場勤務一筋で40年間やってこられた方で、引退後は特に趣味などをお持ちではないご様子。息子さんと娘さんの2人のお子様はそれぞれ東京に暮らしています。5年前に脳梗塞で倒れたことがあり、右半身に若干の麻痺が残っていますが、頭の回転は非常に早く、またお話をすると記憶力に驚かされます。買い物のときの野菜の値段などもしっかり覚えていたりされています。

 弊社のサービスを使い始めていただいた当初は、麻痺からくる体の痛みの愚痴が多く、会話をしている時も楽しそうなご様子はあまりありませんでした。時には話をするのもつらいんだと、早めに電話を切ることも。しかし、毎週じっくりお話を聞いていくうちに、徐々にお話の内容が変わっていきました。最初のきっかけは昔のお仕事のお話を改めて聞いたこでした。打ち込んでいたお仕事の話。特に部長として部下を率いるコツはどのようなことにあるのか。そんなことを熱心にお話いただきました。今まではこちらの問いかけに一言、二言と返すだけだったのが、その時はこちらが質問を入れる暇もないくらいにお話をいただきました。

 それから徐々に、こちらから問いかけなくてもお話をしていただくようになりました。最近見たニュースの、特に政治の話。昔の政治家と今の政治家は何が違うのか。今の政治家には気概がない。そんなことをお話されるようになり、変化を感じていました。気が付けば、体が痛いという話題はほとんどのぼらなくなりました。またお声の調子も明らかに変わってきているように感じました。

 そんな中で、ある日、こんなことをお話いただきました。「最近よく行く花屋さんがあるんだけど、そこの女店員さん誘って焼肉行っちゃいました」

なんと、ナンパをしてしまったのです!医者にはビールを1日1杯までといわれているところ、2杯飲んでしまったということも嬉しそうにお話されていました。

 

お話をすることで、それ自体を楽しむというよりも、外にもっと出て行きたいという気持ちが高まる効果が出ていることを感じました。前述のケースのほかにも、会話をするようになってから英会話に通うようになった、という方もいらっしゃいました。個人的に、一番うれしかったエピソードがあるので紹介します。

ケース 「英会話」 京都府 60代後半女性

 当社のサービスはお子さんからのお申し込みがほとんどですが、この方は「認知症予防に」とご自身で申し込まれたケースです。というのも、未婚の上、身内もほとんどおらず、ほぼ天涯孤独な人だったからです。

 「つながりプラス」では、初回は必ずご自宅を訪問して現状をうかがうのですが、Bさんはじつに3年も他者との会話がなかったため、最初はうまく話せませんでした。声が裏返ってしまったり、こちらの問いかけに対して何度もどもってしまったり・・

 お電話を開始しても、いつも次回の電話の前に話すことをメモしておき、それを読み上げる、というところから会話がスタート。時間も非常に気にされて、ちょうど10分立ったところでガチャリとお切りになる、という調子でした。しかし、サービスを続けていくうちに、リラックスされ、ユーモアを交えた会話をしてくださるようになりました。初めて半年くらい経った頃でしょうか、英会話教室に通い始めました、というお話をしていただきました。毎回少しずつ違うメンバーを相手に、自己紹介をしたり、ニュースの切り抜きにコメントを付けて発表したり、と頭を使って休む暇がありませんと、大変充実しているご様子が電話越しに伝わってきます。

 初対面の人と話をする、ということは、かなりの緊張感を伴うものと思います。弊社サービスを使っていただく中で会話の緊張感が低くなり、その緊張感と「人と話をしたい」という気持ちを天秤にかけた時に、人と話をしたい欲求が上回ったのではないでしょうか。開始当初よりも声に張りが出ているように感じられた、印象的な方です。

 

私達が熱心に話を聞いていると、「自分の話は他人が興味を持つ」→「自分は他人から興味を持たれる存在だ」→「自分は(他人から見て)価値のある存在である」と考えることができるようになるようです。

いわば「自己認識を高める」ことが可能になり、結果として能動的な活動を行ったり、社会的な活動を行う気持ちが高まる、という効果が出てくることを感じます。

 このことは、逆から見れば、高齢者がいかに普段、自己認識を高める手段から遠い生活を送っているか、ということかとも思います。

仕事から離れることで社会的地位を失い、病気や身体的な能力が欠けていくことでも自尊心を喪い、身の回りの人間が減っていくことでコミュニケーションも減っていく。育ててきた子どもたちからも老人扱いをされ、親としての威厳ある地位も失うなど。

 そういう状況に自分がおかれれば、外出などに消極的になるのもよく理解できます。

 そうした方々に対して、私達が少しでもお力になれれば、と思っておりますし、確かな手ごたえを感じているところです。

 また、よく感じるのは、90代を超えてお元気な方などは、例外なく状況に関わらず自己認識が高いということです。あるいは、自己認識というものを超えて、現状を受け入れている感覚が非常に強いと思います。

「親の雑誌」で過去を振り返っていただいた時に、70代、80代の方は現在の自分が満たされていることや、自分がやってきた功績のお話などをされることが多いのですが、90代になると、「なんでもいいけど、とりあえず今生きていることでOK」という雰囲気が出てきているな、と感じます。

願わくば、そうした境地に達するまで長生きしてみたいものだと思います。

神山 晃男
株式会社こころみ
代表取締役社長
プロフィール
1978年生まれ 長野県伊那市出身
投資ファンドのアドバンテッジパートナーズに勤務したのち、2013年6月に株式会社こころみを設立、2014年2月に高齢者向け会話型見守りサービス「つながりプラス」を開始。 「コミュニケーション」と「高齢者の生活」の専門家として数々のセミナーや勉強会に出演中。 「日常会話形式による認知症スクリーニング法の開発と医療介護連携(代表研究者:佐藤眞一大阪大学大学院教授)」共同研究者。 ・「介護のほんねニュース」公認パートナー。 Twitterアカウントは、@akiokamiyama