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ご本人と家族の言葉を聞く

2016年11月28日

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「17年間、仕事を続けながら認知症の母を介護してきた。
とても大変だったけど、介護が終わりに近づくと、母が本当に愛おしくて。もっと介護していたい、と思いました。」

息子として一人で母親の介護をしてきた坂本さん。
同じ話を繰り返し、被害妄想や失行に悩まされ、母子関係は険悪に。
「自分がバカになっていく」「何もかも忘れてしまう」という不安や悔しさ、そして「しっかりしなくては」という戒めで埋め尽くされた母親の日記を見つけたのは、本人がグループホームに入居した後。

当時は本人のそうした気持ちを全く想像できなかったし、本人がその気持ちを口にすることもなかったという。

ダイヤ高齢社会研究財団が主催する認知症と介護離職をテーマにした講演+シンポジウム。

パネリストは認知症介護経験者たち。
俗にいう徘徊や暴言・暴力・介護拒否など、認知症のBPSD(行動心理症状)の多くは病気そのものではなく環境によるもの。認知症介護を大変にしているのは介護者のあり方かもしれない、と講演するのは少し勇気が必要だったが、パネリストたちは「全くその通りです」と同意してくれた。

ダイヤ財団と明治安田生活福祉研究所の共同調査によると、介護離職のきっかけの多くは「自分以外に親を介護する人がいない」が最多、「自分で親の介護をしたい」という回答も女性では20%に。公的サービスを利用せずに認知症介護をしているケースも10%近く存在している。

家族介護は一見美しい。
しかし、排他的な家族によるケアは双方にとって不利益になることも少なくない。
「自分が頑張らなければ」という義務感、そして「父はこういう人だった」という固定観念。これらは本人への無言の圧力となる。それはBPSDを悪化させ、介護負担の増大、本人へのさらなる圧力という悪循環に陥っていく。
そして家族はそれを抱え込み、疲弊し、孤立していく。

僕は認知症ケアによる介護離職は減らせると思う。

そのために必要なのは、まずは認知症に対する正しい知識。
そして、家族を孤立させないための社会的支援。
認知症ケアが「恥ずかしいこと・大変なこと」ではなく、誰もが迎える老齢期を幸せに過ごすための創造的な取り組みなのだ、という私たち一人ひとりの意識改革も重要だと思う。

介護離職は、離職する本人のみならず、会社にとっても大きな損失になる。
認知症とともに生きる人は、これからどんどん増えていく。本人や家族が認知症である、というケースは、むしろマジョリティ。雇用者は、人生のフェイズや家族の事情に応じて、多様な働き方を認める寛容さと柔軟性がなければ、日本で事業活動を継続していくことが困難になっていくのではないだろうか。

日本はこれから高齢者が増え続ける。
そして、その高齢者の40%が認知症になる。

認知症を他人事として隔離するのではなく、私たち全員が当事者意識を持ち、自分や家族が認知症になっても不幸でないといえる社会を創る努力をいま始めなければ、私たち自身もいつか暗く冷たい老後を送ることになるのだろう。
そのためには、医療介護以外のセクターを巻き込んで、地域全体・社会全体で取り組んでいく必要がある。

17年間の母親の介護を終えた坂本さんはいま、認知症の人と家族の会の運営に関わり、認知症ケアに悩む家族を介護経験者の立場からサポートしている。

坂本さんは言う。
「自宅か、施設か、ではない。地域が支える力を持つことが一番大切なのだ」と。

講演を終えて会場を出ると、丸ノ内は冬支度の真っ最中。
葉を落とし始めた街路樹が無数のLEDに彩られ、暗く冷たい石畳を暖かく美しく浮かび上がらせていた。

佐々木淳
医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
プロフィール
筑波大学医学専門学群、東京大学大学院博士課程卒業。三井記念病院、医療法人社団 哲仁会 井口病院副院長等を経て、24時間対応の在宅総合診療を提供する医療法人社団 悠翔会を設立。