医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

世界に冠たる日本の周産期医療が、なぜ縮小?

2016年9月28日

このエントリーをはてなブックマークに追加

先日厚生労働省から、最新である平成27年度の「医療施設調査」報告がまとめられました。

(参考)厚生労働省 医療施設調査 概況

 ニュースにもなっていましたが、産婦人科や産科を標榜する病院、一般診療所はともに減り続けており、1990年の数値と比べどちらも半数近くまで数を減らしています。

出生数が減っているのである意味仕方ない、という見方もあるかもしれません。ただ、私が上記の施設数と、人口動態統計で公表されている出生数の数字からざっくりと計算したところ、こんな結果も出ています。オレンジ色の分娩数の変化はこの25年間で約20%の減少となっていますが、青色の産婦人科施設総数の変化は45%も減少しています。

分娩総数と産科、産婦人科施設総数(一般病院)の減少率比較
(クリックで拡大されます)

つまり、子どもの出生数の減少率をかなり上回るスピードで産婦人科施設の数が減っているのです。

また、ほぼお産を扱わない一般診療所にいたってもすさまじいペースで減っていて、すでに一昨年の時点で、産婦人科または産科を標ぼうする施設数は全医療施設数に対して3.5%にまで落としています。町中にあるクリニックの中で、産婦人科の存在自体がすでにレアなものになってしまったということであり、言い換えれば、妊娠したい、妊娠した、といったときの相談先さえ不足しています。核家族が定着した中でのこういった状況が、妊娠や子育てで悩む女性たちにとって気軽に医療機関を受診できない背景となっており、我々医療側も苦しんでいる彼女たちに寄り添うことがなかなかできない原因の一端となっているとも考えられます。


(クリックで拡大されます)

周産期医療の資源はすでに持ちこたえられる限界点近くまで逼迫しているというのが、偽らざる、そして決して誇張でもない事実だと思います。そして、こんな状況では医療の質の低下が懸念されますが、決してそんなことはありません。むしろ日本の周産期医療のパフォーマンスは驚くべきものです。

各国の妊産婦死亡率(出産10万対)推移(クリックで拡大されます)

こちらでお分かりのように、ほぼ、ここ四半世紀にわたり、同時に強烈な施設数の減少をともないながらも、世界トップクラスの成績を残し続けています。間違いなく日本の周産期医療は世界に誇れるものです。しかし、現実は最初にお示ししたように、施設数の減少に歯止めがかからず、増やす展望も今のところありません。少子化を打破するときのインフラとも言える産婦人科施設のこうした実状をいかに改善するか、素晴らしいパフォーマンスを維持しているこの医療体制を持続可能にするにはどうしたらよいのか、待ったなしの議論とアクションプランが必要だと思います。

宗田 聡
産婦人科医
プロフィール
茨城県出身。医師、医学博士。専門は、産婦人科医(周産期医療、出生前診断、胎児医学、遺伝医学、メンタルヘルス、医療倫理、プライマリケア、医療IT、女性医学)。日本産科婦人科学会認定医・指導医、臨床遺伝学認定医・指導医、認定産業医・スポーツ医、アメリカ人類遺伝学会(ACMG)上級会員(Fellow)
 母校の大学病院で講師として臨床医療・教育・研究に関わり、留学後に幅広い医療、特に女性の心とカラダの健康を総合的にサポートする医療を理想として、地域周産期センター長を歴任後、都内で都市型かかりつけ医のクリニックを開業。
 日英論文多数、専門書(翻訳)執筆にも定評があり、一般誌でも「Anecan」など様々な雑誌で女性の健康に関する記事を多数執筆。著書には、「産後ママの心と体をケアする本」「産後うつ病ガイドブック」「ニューイングランド周産期マニュアル第二版」など。