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浅虫温泉の地域ケア

2016年9月6日

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浅めし食堂の入り口。階段が写ってますが、もちろんバリアフリーです。

浅虫温泉は棟方志功ゆかりの風光明媚な温泉地です。
しかしここでも人口減少が進行し、15年前1800人いた住民は現在1323人。高齢化率は50%という日本の未来の縮図のような場所です。

先日、青森県立中央病院が主催する第8回県病医療連携フォーラムにお招きいただきお話をいたしましたが、その後シンポジウムでご一緒した石木基夫先生がこの浅虫地区で展開されている地域ケアをこの目で見てみたいと思い、訪問してみました。

浅虫地区には地域医療機関は石木先生の無床クリニック(石木医院)のみ。
5年前には500人だったクリニックの患者数は地域人口とともに減少し現在は400人。うち後期高齢者が約200人、前期高齢者が約100人。地域の高齢者人口もすでに減少に転じ、それに伴い患者数も少なくなってきているとのこと。在宅介護力の弱さか、要介護4以上の在宅患者はゼロ、介護度が上がると多くは青森市内の高齢者住宅(施設)に入居されているそうです。

このような状況の中、石木先生は高齢者が最期までこの地域で生活ができるよう包括的に取り組まれています。

まずは高齢者の「すまい」の確保。
クリニックに老健(定員18名)と医療対応型のサービス付き高齢者住宅(40名)を併設、認知症グループホームも3か所整備(各18人名)、また理事を務められている社会福祉法人にて軽費老人ホーム(60名)を運用、地域内に高齢者の療養場所を確保しています。(この社福は隣接地区に特養(110名)、グループホーム(9名)、ケアハウス2か所(合計49名)も運営)

そして街のコミュニティ機能のサポート。
増えていく一人暮らしの高齢者が1日に1食でも温かくて栄養バランスのよい食事を顔なじみの人と話をしながら食べてほしいという思いから「浅めし食堂」をオープン。コミュニティレストランとして、隣接する施設に入居する方々の食堂として、そして地域の生活用品ショップ、配食サービスの拠点として機能しています。
ここはNPO法人「活き粋あさむし」が運営、数名の若者が忙しそうに働いていて、地域の雇用創出にもつながっていることがわかります。


これなら若い人も抵抗なく遊びに来てくれそうです。

「粋」という言葉が示す通り、すべての世代に居心地のよいユニバーサルな空間(グッドデザイン賞も受賞されたとのこと)。このあたりは銀木犀やマギーズに通ずるものを感じました。壁には、かつての地域地図や古い写真などのパネルが。この地域の歴史を静かに物語ります。使い古された味わいのあるテーブルは、午前11時には地域の人たちで埋まってしまいました。このコミュニティレストランは地域の栄養ケアのみならず、高齢者の孤立を防ぐという意味でも十分に機能しているようです。

人口1300人という小さなコミュニティで、すまいの選択肢があり、保険制度に頼らない食支援や見守りの仕組みがあり、それが必要最小限の医療介護職で運営されている。地域包括ケアの一つの形を見せていただいたような気がしました。施設から在宅へ、という流れの中、施設療養に依存せざるを得ない地域の実情も理解できました。青森の場合、高齢になると特に冬の雪への対応が難しく、これが施設療養が選択される大きな要因になっているそうです。

地域の歴史がパネルによって表現されています。

地域を守る医師が一人しかいない、という点だけが心細いですが、人口の少ない地区においては、医師の機能を補完する看護職やその他の専門職の役割、そして予防のための取り組みがさらに重要になっていくのだと思います。
これから高齢者が減っていく地方(地区)においては、どう集約・収束していくか、ということも同時に考えていかなければならないのだということも実感しました。

おそらく一代目の先生の診療風景では、と推測しています。

課題は同じですが、状況が全く異なる首都圏において、どうソフトランディングを目指していくか。
とても勉強になりました。

佐々木淳
医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
プロフィール
筑波大学医学専門学群、東京大学大学院博士課程卒業。三井記念病院、医療法人社団 哲仁会 井口病院副院長等を経て、24時間対応の在宅総合診療を提供する医療法人社団 悠翔会を設立。