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がん患者の困りごとと申請主義

2016年9月1日

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多くの方が病気になってはじめて、頻繁に病院に通うようになります。そこで、「○○してくれるんじゃないの?」と想像していた病院のイメージと大きく異なることを体験していきます。

「入院したらよ、若い看護師さんがいろいろ世話してくれるのかと思ってたよ。」と冗談半分で残念がる男性患者さんがいます。しかし実際の手術後は、「さあ、歩きましょう!」「ハイ、検査行ってきてください。」と、早期離床・早期退院の流れにのって、本人の力で日常に戻る練習をしていきます。(もちろん、ご本人の体調や症状に合わせてですが。)

それと同様に、がん患者さんの仕事や生活においても起こります。「入院したら会社から補助がもらえるのは知っていたけど、退院して自宅で療養してても、もらえるんだね」と傷病手当金のことを話す患者さんもいます。

つまり、罹患して体験を通してはじめて学ぶことがたくさんあります。実は医療教育・制度教育・金融教育は、多くの日本人が学校でも職場でも学ぶ機会がありません。中学・高校でも納税は国民の義務であることを学んでも、具体的に確定申告の方法や、所得税の医療費控除を教えてもらうことはありませんでした。

このようなことから、多くの方々が健康保険・年金・税金などの支払義務を果たしつつも、その権利を認識していないという現状です。

加えて、それらの制度利用するにしても、①書類をもらいに行く、②書類を記入する、③全ての書類を期日までに提出する、④受理され審査を受ける、⑤承認されるというプロセスを経て、はじめて「制度を利用できますよ」となります。それが、申請主義という書類申請による制度設計だそうです。

つまりは「知っていること」の次に「書類を出すこと」まで終わらない限りは義務を果たしていても権利を行使できません。悪く言えば「知らない」「書類を出さない」状態であれば、『アリのように働いて、キリギリスのような困難に直面してしまう』ことになってしまいます。

がん患者さんの経済的な不安を解決するためには、その申請主義のハードルを超えなければいけませんでした。しかも、経済的な不安を明確にするためには、「困りごと」に分類しなければ、はっきりと利用できるタイミングも患者・家族・医療従事者でも把握できませんでした。

そこで、私たちはNPO法人に参加する専門家の力を借りて、がん患者さんの「困りごと」と「利用できる制度」を整理してみました。

がん患者の困りごとと申請主義

(クリックで拡大します:無断転載禁止)

この図は、在宅ホスピスで学んだ終末期のがん患者さんの困りごとを、社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー・税理士・弁護士と一緒に整理したものです。

例えば、自宅で動けなくなりATMに行けなくなった一人暮らしの方の現金を誰がおろすのか(日常生活自立支援事業)。治療が長くなり傷病手当金が終了する患者さんは、これからの収入はどうすれば良いのか(障害年金)。会社に迷惑をかけられないので退職する予定であるが、今後の生計はどうやって維持できるのか(退職に伴う制度一覧)。親の介護で介護休業をとったが、その間は給与が出ない!?・・・本当に出ないのか(介護休業給付金)。

医療の内容とは少し違った患者さんの生々しい困りごとに、金融や制度・法律の専門家が知恵を出してくれました。残念ながら、その支援が患者さんの最期に間に合わないこともありましたし、間に合ってとても明るくなった患者さんもいます。ともかく、患者さんの困った経験を次の患者さんが困らないように還元できるように、事例を大切にしました。

ただ、図を作って制度を整理しても、喜んではいられません。同じように困っている患者さんにどうやって届けるかを考えなくてはならないからです。

そこで、作ったのが、がん制度ドックです。

がん制度ドック〜がん患者のお金や治療費の悩みを解決〜 http://www.ganseido.com/

これによって、簡単に制度を調べることができます。このサイトの活用とその反響については次回に。

賢見 卓也
看護師
プロフィール
兵庫県立看護大学卒業。日本大学大学院グローバルビジネス研究科卒業。看護師。MBA。 訪問看護パリアン 在宅ホスピス看護師。株式会社トロップス 代表取締役。NPO法人がんと暮らしを考える会 理事長。

医療法人社団パリアン http://www.pallium.co.jp/
株式会社トロップス http://www.troppus.co.jp/
NPO法人がんと暮らしを考える会 http://www.gankura.org/