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3つの共有

2016年5月19日

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私が在宅医療に本格的に取り組むようになってから、今年でちょうど10年になります。これを節目にというわけではありませんが、このたび『在宅医療 他職種連携ハンドブック』という本を上梓しました。治らない病気や障害を持った人たちと、近い将来死が訪れるという運命から逃れられない人たちと、医師としてどう向き合っていけばいいのか。毎日が悩みの連続でした。そして到達した一つの結論は、「在宅医が一人で解決できる問題は少ない」ということです。医師でなければできないことはもちろんあります。しかし「生活を支える医療」を支えるのは、医師ではなく多職種であり地域住民なのです。このことは、私にとって、この10年で最大の学びだったかもしれません。

多職種連携の礎は目的共有です。 そして、その先に課題意識(課題が存在しているという認識)の共有、課題解決に向けてのプロセスの共有があります。 本書では、現場で多く遭遇するテーマについて、多職種間でこの「3つの共有」ができることを目指しました。そのために各テーマの全体像が俯瞰できるよう、専門性の枠を超えた編集を意識しました。全体像が共有できれば、より効果的な役割分担が実現するかもしれません。また、その中で、それぞれの専門職の役割が再定義されるかもしれません。

第一章では、在宅医療のコンセプトの言語化を試みました。 在宅医療に従事する医療介護の多職種と、そして在宅医療を受ける患者さんやご家族の双方が共有しておくべき「目標」を明確にしておきたいと考えたからです。内容が提供者目線にならなかったのは、在宅介護や看取りを経験された3人のご家族のご協力によるものだと思います。ものがたり診療所の佐藤伸彦先生からは、在宅医療を考える上で避けて通れないいくつかの問いに大きなヒントをいただきました。

第二章では、在宅医療の対象となる高齢者がどのような課題を抱え、その解決をどう支援していけばいいのかをまとめました。 栄養・摂食嚥下・リハビリテーションの広範な領域を横断する予防医学的知識は、在宅医療者にとって必要不可欠なものです。職種別に分割されていた知識やノウハウを目的別に再分類し、すべての多職種が支援のプロセスを共有できることを目指しました。 認知症ケアについては、その領域で大きな成果を上げているメンバーと認知症当事者が協力してくれました。二つの異なる立場の意見を合わせてお読みいただければ、私たちが目指すべきこれからの認知症ケアの形を具体的にイメージできると思います。 センスや経験がなければ難しいとされてきた「人生の最終段階のケア」については、それぞれのスキルをフレームワークで理解・実践できることを目指しました。緩和医療はもちろん、臨床倫理から意思決定支援、スピリチュアルケアまで、必要な領域を網羅しました。 他にも、「シーティング」などその重要性にも関わらず認知度の低い項目を個別に取り上げました。在宅における感染症対策や排泄ケアの支援など、それぞれの現場で試行錯誤されている領域の体系化にも取り組んでいます。

第三章では、在宅医療(訪問診療)の実際の運営方法をまとめました。 もともと悠翔会の訪問診療マニュアルとして私自身がコツコツと執筆していたものです。これから在宅医療(訪問診療)を始めてみようと思っているドクターには手軽な入門書になるかもしれません。もちろん、在宅医療を利用する患者さん、協働する多職種にとっても、具体的な在宅医療のしくみや流れを知ることは重要です。地域包括ケアシステムの中で在宅医療をどう位置づけていくべきか、みんなで考えるための材料にもなると思います。

超高齢社会日本の未来を暗くするのも明るくするのも、医療介護の専門家である私たち次第。 一つひとつの人生が最期まで輝き続けることができたら、この国全体がきっと輝きを増すはずです。 シームレスな多職種連携はそのための絶対条件。まずは職種の壁を越えて「共有」するところから始めましょう。 本書がそのための1つのきっかけになれたらとてもうれしく思います。

 

photo by  Michael Thomas

佐々木淳
医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
プロフィール
筑波大学医学専門学群、東京大学大学院博士課程卒業。三井記念病院、医療法人社団 哲仁会 井口病院副院長等を経て、24時間対応の在宅総合診療を提供する医療法人社団 悠翔会を設立。