医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

産後うつと自殺

2016年5月12日

このエントリーをはてなブックマークに追加

silent-voice-of-Mothers

先月の日本産婦人科学会で、妊産婦の死亡に関する発表がありました。多くの国では、いまだに出産が死亡の大きな原因となっていますが、日本においてはこの20年間で驚異的に死亡率が下がり、最近では10万人あたり約4人という少なさです。
しかし一方で、都内23区の05〜14年の自殺者の数を調べた結果、「妊娠中」の女性23人と「出産後1年未満」の女性40人の計63人であったことが明らかになりました。出産数に占める割合は10万人あたり8.5人であり、出血などにる妊産婦死亡率の約2倍に上ります。この結果だけみれば、妊娠・出産期の死因として自殺が最も多いという、相当に異常な状態であることがわかります。さらに、自殺した妊産婦の約半数が精神科の通院歴があったとのことです。

いまや産後うつは出産した女性の10人に1人がなるとされ、そのことが自身の自殺だけでなく、子どもへの虐待や育児放棄などにつながる恐れが懸念されているのは、皆様ご存知の通りです。私を含め、臨床の実感としては既に知られていたことかと思いますが、こうして改めて数値が出てきますと、彼女たちに対するメンタルケアの充実は一刻の猶予もない状態である、と認識せざるを得ません。
先日のコラムでも触れましたが、学会は来年改定する診療ガイドラインに、妊産婦の精神面をチェックし、産後うつになる危険性の高い女性を早期に見つける問診などの具体策を盛り込む方針を決めていて、現在専門部会で定期的に内容を検討しています。それ以前にも、関連職種との連携についてマニュアルを作成したり、国に対しては精神疾患を合併している妊産婦の医学管理に対して「ハイリスク妊娠管理加算」の対象に加え、診療報酬上の配慮を行うよう要望も出しています。

(参考)妊娠等について悩まれている方のための相談事業連携マニュアル

(参考)日本産婦人科学会の要望書

今年に入って、自治体でも対策を取ろうとするところが出てきました。大阪府では、全国で初めて従来の妊産婦相談窓口とは少し違う、精神的ケアを専門とする窓口を今年2月に開設しています。

(参考)大阪府妊産婦こころの相談センター

「産後うつ」という言葉がようやくニュースで見られるようになり、立ち遅れていた社会の認識も少しずつ進むことでしょう。これからはその状況が進むにつれ、これまで理解されないと引きこもり、孤独に苦しんでいた妊産婦が、勇気を持って窓口やクリニックに現れてくれるかもしれません。私たちはその時に備え、彼女たちをケアできる体制をしっかりと作っていくことが求められていると思います。

Photo by Nicolas Alejandro Street Photography

宗田 聡
産婦人科医
プロフィール
茨城県出身。医師、医学博士。専門は、産婦人科医(周産期医療、出生前診断、胎児医学、遺伝医学、メンタルヘルス、医療倫理、プライマリケア、医療IT、女性医学)。日本産科婦人科学会認定医・指導医、臨床遺伝学認定医・指導医、認定産業医・スポーツ医、アメリカ人類遺伝学会(ACMG)上級会員(Fellow)
 母校の大学病院で講師として臨床医療・教育・研究に関わり、留学後に幅広い医療、特に女性の心とカラダの健康を総合的にサポートする医療を理想として、地域周産期センター長を歴任後、都内で都市型かかりつけ医のクリニックを開業。
 日英論文多数、専門書(翻訳)執筆にも定評があり、一般誌でも「Anecan」など様々な雑誌で女性の健康に関する記事を多数執筆。著書には、「産後ママの心と体をケアする本」「産後うつ病ガイドブック」「ニューイングランド周産期マニュアル第二版」など。