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28年度診療報酬改定:メッセージを読み解く

2016年2月16日

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28年度診療報酬改定:メッセージを読み解く

今回の診療報酬改定は、メッセージが明確。
ちょっと複雑すぎるかなと思うところもあるけど、細かい数字の一つひとつに緻密な計算を感じる。

●在宅医療に特化したいなら「在宅」にしっかり取り組むべし。

在宅医療専門という医療機関が認められたのは画期的。地域医療における在宅医療の専門性を位置づける一つのマイルストーンになると思う。
しかし、在宅医療専門を謳うためには、いくつかのハードルがある。

①全患者数に占める在宅患者の割合が95%以上
②年間看取りが20人以上
③要介護3以上+別に定められた状態(医療依存度の高いケース)の患者が50%以上
④居宅患者が30%以上・・・・

逆に在宅患者の割合が95%以上なのに、②以下を満たせないクリニックは「在宅専門もどき」の烙印を押され、診療報酬も2割カットされる。施設診療に特化しているクリニック、緊急対応せずに救急搬送してしまうクリニックなどを狙い撃ちした感がある。
ここが今回の診療報酬改定の最大のポイントではないかと個人的には思う。

●在宅+外来ミックスのススメ。

在宅患者の割合が95%を超えると厳しいハードルが課されるが、逆に在宅患者の割合が95%未満だと、これらのハードルが消失する。
これは、まだ在宅医療に取り組んでいない地域の開業医に対するアドバンテージの提供ではないかと思う。少なくとも施設在宅医療は、在宅医療専門クリニックはやりにくくなる(施設患者の割合が70%を超えるとペナルティ)。逆に、在宅患者の割合が95%未満なら、施設患者の割合にしばりはない。
今後、施設への訪問診療は、近隣の開業医が担当すべき、ということになるかもしれない。
しかし、施設診療における診療報酬上の「うまみ」は少なくなっている。きちんとした連携体制を作ることができない施設は、訪問診療医を確保することが難しくなるかもしれない。

●診療の品質と効率を両立せよ。

施設に入居している患者さんの診療報酬は、その建物に何人の患者さんがいるかで決まる、というのが今回のルール。1人の場合、2~9人の場合、10人以上の場合で3通りの診療報酬が設定されている。
人数が多ければ多いほど、一人あたりの移動時間や交通費などの間接的な所要時間やコストが圧縮されることを反映したものと思われる。
居宅患者の訪問診療を考えると、診療効率という視点からは合理的な設定になっていると思う。
前回の改定では、施設診療の大幅減額を示す一方で、「1日1人診察だったら居宅並みの特別診療収入」という激変緩和措置があったが、これは2年の移行期間を経て今回は完全に廃止。

●月1回の訪問診療でも医学総合管理料を認める。

在宅医療の主たる収入源は医学総合管理料であるが、これは月2回以上の訪問診療が算定要件であった。したがって、比較的安定しているケースにおいても、月2回の診療を行われることが多かったと思うが、今回は月1回の訪問診療でも医学総合管理料の算定が認められた。
僕らのクリニックでも、安定していて月2回の訪問診療は過剰だなあ・・・というケースについては、月1回の訪問診療料のみ算定していたが(もちろん24時間対応込みで)、今後は医学総合管理料もきちんといただけることになった。
管理体制のよい老人ホームに入居されている患者さんたち、あるいは介護力の強いご家族のいる患者さんなどは、月1回でも十分な医学管理ができそう。
診療収入としては、月2回訪問診療に行った場合の半額プラスアルファくらいだが、これで新しい患者さんの受け入れ余力を増やすことができる。

●重症度に応じた診療報酬の設定。

在宅酸素、経管栄養、気管切開、人工呼吸器、末期がん、難病、エイズなどのケースは、それ以外のケースよりも診療に時間がかかったり、衛生材料の手配など、特別な準備が必要になったりする。
このようなケースにおいては、医学総合管理料がこれまでよりもかなり高く設定されている。
同じ診療収入なら軽症患者のほうが楽でいいよね・・という安易な流れがこれで少し変わるか。

●質の高い在宅緩和ケアに取り組め。

高度な緩和ケアが提供できる医師の配置、実際に高度な緩和医療を提供した実績があれば、「在宅緩和ケア充実診療所」として大幅な加算が新たに設定されている。
質の高い在宅緩和ケアの定義については議論があるが、がん患者さんの看取りなど、相応のスキルと経験が必要な領域について、その専門性を評価する方向性としては非常に妥当だと思う。

●多職種連携が進むといいなあ・・・

在宅医療は単独では結果が出せない。また在宅医が増えない中、高齢者や死亡者が増加していく現状においては、一人の在宅医が関われる在宅患者数を増やすことも考えなければならない。
いずれの観点からも、多職種や病院との連携が今後さらに重要になると考える。
在宅患者の将来のQOLを左右するのは予防医学的介入であり、在宅患者の再入院(緊急入院)のリスクを軽減することは在宅医の使命の1つである。訪問リハビリテーションの医療保険適応範囲の拡大は検討すべきと思うし、訪問管理栄養指導、訪問口腔衛生指導の普及を加速させるもうひと工夫があればさらによかった。
それでも、疾病管理において、問題となっているポリファーマシーに対し、薬剤師が薬物治療に一歩踏む込むことが評価されたのはとても大きいと思う。

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「利益ではなく理想を追求する」

これは悠翔会の基本理念の1つ。

・診療依頼は病状を理由に断らない。
・365日×24時間、確実に対応する。
・看取れる地域づくりに取り組む。
・施設診療は多職種連携しやすい集団診療を基本とする。
・安定している患者は月1回の訪問診療でも対応する。

これらの取り組みは、今回の診療報酬の改定とは関係なく、これまで実践してきたこと。もちろんまだまだ取り組みとして不十分なこともたくさんあるけど、診療報酬で評価されているかどうかは、私たちが行動する上での判断基準の1つに過ぎない。

“The needs of the patients come first.”

地域や患者さんから自分たちは何を求められているのか。
誰かに指示されるのではなく、自分たちの頭で考えて行動することが一番大切なこと。

医師としても、経営者としても、目的と手段を混同しないよう常に意識していきたいと思う。

佐々木淳
医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
プロフィール
筑波大学医学専門学群、東京大学大学院博士課程卒業。三井記念病院、医療法人社団 哲仁会 井口病院副院長等を経て、24時間対応の在宅総合診療を提供する医療法人社団 悠翔会を設立。