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フランスの医療と介護(4)

2015年12月7日

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フランスの医療と介護(4)在宅入院とは

オペラ座

今回の視察の主目的は「在宅入院」について学ぶことでした。
在宅入院連盟(L’hospitalisation a domicile)エリック・ジネジー事務局長
サンテサービス(民間非営利のHAD事業社最大手)ミシェル・カルモン代表
お二人からお話をお聞きしました。

■HAD(※1)の診療サービス
「在宅入院」という名称からは医師が連日訪問するイメージがあるが、実際には訪問看護による医療処置+身体介護が中心(看護師・助産師・看護助手などの派遣のみを行う)。日本的には訪問診療というよりは、訪問看護に近い。
HADの医師はコーディネートのみ行い診療はしない。HADを導入しても、患者の主治医がかかりつけ医であることは変わらず、往診が必要なケースはかかりつけ医に依頼する。

●「在宅入院」の患者
患者は自宅や施設にて入院的治療を受ける。対象者は新生児から高齢者まで。慢性疾患の管理ではなく、重症疾患への対応が中心。
患者に対するケアは入院時のように毎日、1日に複数回訪問も多いが、毎日訪問でないケースもあるとのこと。

●利用までの流れ
①医師がHADの必要性を認める(医師の指示箋が必要)
②その後、HAD側で受け入れの可否を判断
③自宅の療養環境のチェック
④在宅入院を開始
かかりつけ医が主治医であることは変わらず、病院からの導入の場合でも、かかりつけ医の同意(指示)が必ず必要。
なお、HADは

・24時間×365日対応
・100%医療保険対応
・患者憲章(患者権利法)に基づいて対応
・すべて外部の医療機能評価機構(HAS)から認証を受けている。

フランスでも医療費は年々増、対GDP比でも増加してきていて、
高齢化および医療技術の進歩がその要因と考えられている。
歳入が減少し歳出が増加しているので、財政赤字は拡大している。
この点日本のほうが高齢化は圧倒的に進んでいるが、フランスも同様。

■法的に定義されたHADの役割
①あくまで在宅「入院」なので、サービスを提供する期間が限定されている。
②ただし提供期間の更新は可能。
③単発の往診には対応しない。計画的・頻回の訪問を担当する。
フランスでは他国と比較し、外来やプライマリケアが大変遅れており、これがHADを必要とする1つの要因とのこと。

■診療実績
2014年の実績では、HADの延べ入院日数4,439,494日/延べ入院件数156,284件であった。
平均入院日数は30日となる。
在宅入院患者数は106,000人(うち死亡退院患者が15,000人)。
一方、全入院患者は700万人であり、フランス国内における入院診療の0.6%を担当しているにすぎない。

■診療費
在宅入院の1日の医療費は平均200ユーロ/月6,000ユーロ。
高額な一部の医薬品を除き、ケアやケア・薬剤や衛生材料・搬送費・外部委託費(薬局や開業看護師など)などが包括された数字。診療報酬は訪問日のみに発生するのが原則だが、在宅化学療法や周産期ケア・リスク妊婦などの場合は、それぞれ包括的な評価がある。
※施設診療(EHPAD(高齢者施設)への診療)
施設に入居している高齢者が通院するのは現実的ではないということで、HADは施設への診療も提供している。HADの活動の4%はこれらの高齢者向け施設に提供されているが、地方では10%以上を占めているところもある。同一住所の複数の患者を診療した場合には、平均で13%減算。
※HAD導入によるかかりつけ医の診療報酬の変化
かかりつけ医が在宅主治医であることには変わらず、診療行為はそのまま診療費として支払われる。HADの母体によって支払いの形式は異なる(公立の場合はHADからの支払い、民間の場合はかかりつけ医が直接請求)。

■診療内容
もっとも多いのが複雑ガーゼ交換(陰圧下)全体の25%、ターミナルケア、人工栄養、在宅化学療法、人工呼吸管理、術後管理と続く。
全医療行為のうち3分の1が、がんに関する医療処置。

■運営形式
全国に311のHADが存在。
うち131が民間非営利型(在宅入院の42%を担当)。128が公立病院付属(在宅入院の41%を担当)。52が民間営利。サンテサービス(民間非営利)では1日1400人、パリ公立病院協会では800人を担当しているが、一般に小規模のところが多く、平均では民間非営利50件/公立病院付属17件/民間営利26件程度。
一般にHADは急性期から慢性期の全体に対応するが、中には小児特化、悪性腫瘍特化、リハビリ特化型のHADも存在する。
HADが成立するためには、25万人以上の人口規模が必要になる(HADの対象患者は人口5000人に1人程度)。それ以下であれば、SSIADやかかりつけ医、ネットワークなどで対応していく。

■運営体制
プロパーで雇用しなければならないのは、以下の3職種。それ以外は外部連携でもよい。
・コーディネートドクター(臨床をしない医師)
・コーディネート看護師(管理担当・処置はしない)
・看護助手(身体看護を担当)
看護師についてはプロパーで雇用しているところ、外部の開業看護師との連携をしているところもある。
大規模HADの中には「院内薬局」を持っているところもあると。
■患者のエントリーと転帰
69%が退院時に導入
31%が在宅(SSIAD・かかりつけ医・MAIA・CLICなど)から導入

57%が在宅復帰または在宅維持
33%が入院
10%が死亡

■エントリー後の流れ
①ケアプロジェクト(身体・心理・社会的側面のアセスメントから治療方針・治療計画を決める)
(コーディネートドクターが担当)
②治療計画に従いかかりつけ医とコメディカル(看護師・薬局・臨床検査センター・病院など)が動く。
「在宅入院」というネーミングだが、オーガナイズド・プライマリケアに相当するものかもしれない。
③ロジスティック(ベッド・酸素などの療養環境整備)

 

■サンテサービス代表 ミシェル・カルモン氏より ————————

フランス保健省のプライオリティは以下の順番。

①外来手術
②日帰り入院
③在宅入院。

国の政策、患者の希望(フランスでも70%が在宅看取りを希望している)の双方にかなうものであり、家族の近くにいるということが、患者治療上も非常に効果がある。一方、医療面でも入院治療と遜色のない医療が提供できるし、通院から解放することもできる。
在宅で望ましい医療を提供されることが、多くの患者さんの満足度に反映されている。
国も医療経済上も効果的な診療サービスであると認識しており(同様の医療サービスを入院で提供すると5倍のコストがかかる)、また病院の平均在院日数の短縮にも貢献している。これはコスト面だけでなく、医療資源の有効活用という面からも有益であり、実病床の削減も可能になる。この方向性を維持するためにも、今後もHADを推進していきたい。
OECD加盟国の中でも在宅入院という試みが拡がっており、現在、ロシアでもHADが展開されようとしている。

(サンテサービス社について)
フランス最大のHAD事業者であり、HAD以外にSSIAD(訪問看護+身体介護)も提供、在宅医療に関する義務的教育事業やHADの導入コンサルティング(クリニカルパスの提供など)も行っている。職員900人、年商1億ユーロ。首都圏を3ブロック(東部・西部・南部)に分けてサービスを提供しており、300以上のネットワークおよび開業コメディカル(看護師・心理療法士・MSW・リハ職)と連携している。

(HAD事業の開設について)
HADの開設にはARS(※2)の認可が必要であり、病院開設と同様の厳しさがある。
ただし、HADは国策的に5カ年計画で2018年までに倍増させることになっている。そのためにはHADに対する(一般市民のみならず)病院やかかりつけ医、開業看護師などに対する理解を深めることが重要と。

在宅入院とは

在宅入院連盟(L’hospitalisation a domicile)エリック・ジネジー事務局長
サンテサービス(民間非営利のHAD事業社最大手)ミシェル・カルモン代表

HADはフランスの在宅医療のしくみであると理解していたが、日本でいえば、訪問診療というよりも訪問看護に近い形であることが分かりました。在宅医療が必要になった場合、かかりつけ医がHAD導入を指示し、自らは主治医として関わり続けます。しかし、在宅ケアの大部分(ほとんどすべて)が看護師および看護助手によって行われ、医師の介入は非常に小さい(往診に行くのは死亡診断の時くらい?)ようです。
HADが行うのは在宅療養のコーディネート+訪問看護+身体介護であり、コーディネートを専業の医師が行うことで治療計画を含めたケアプランが提供できるところが日本の居宅介護支援とは異なるところ。
フランスは看取り率が非常に低く、一方で在宅看取りを望む患者が多いという点は日本と同じ。看護師を中心としたコメディカルが力を発揮しているフランスだが、この前にお話をお伺いした開業看護師のジネストさんは、在宅での看取りの難しさを繰り返していました。在宅医療にもう少し医師が積極的に関われる仕組みがあれば、フランスでは飛躍的に看取りを増やせるのでは、という印象も持ちました。
逆に、日本では訪問看護が量的・質的にもっと力を発揮できる状況が作れれば、同様のことを期待できると感じました。

 

※1)在宅入院(Hospitalisation a Domicile:HAD)、またはその事業を行う事業体の全国的な組織「在宅入院連盟」のこと。2008年現在、フランス全土に177の事業所がある(1事業所あたり60床程度か)。患者さんの自宅のベッドを1床としてカウントする。対象疾患は精神科を除く周産期からターミナルケアまでの急性期疾患。サンテサービスは民間非営利の事業体で、在宅入院連盟の有力な加盟団体のひとつ。主にパリとその周辺で活動している。なお連盟には公営、民間非営利、民間営利などさまざまな運営形態の事業所が加盟しているが、その事業は運営形態を問わず公的保険の対象であり、診療報酬も設定されている。

※2) ARS:地域圏保険庁(Agence Régional de Santé : ARS)
保険支払いを含めた地域の予算配分、サービス配置などについて予算を認証する権限を持つ(佐々木注:日本における地域医療計画をさらに強化した概念か)。日本のように透析ベッドやMRIなど、民間の判断で自由に投資できるというわけではなく、保険を使うものについては、ARSが許可したものでなければ導入できない(フランスではPETは全国に数台しかない)。公的権限が非常に強い。

 

(編集部より)
佐々木医師がオーガナイザーを務め、各方面で大きな話題となっている「在宅医療カレッジ」の特別企画としてシンポジウムが開催されます。「地域包括ケア時代に求められる医療と介護の役割」 と題し、厚労省の専門官も含めたパネリスト10人のディスカッションが行なわれるとのこと。詳しくはこちらをご覧ください。

[2015年12月10日開催]在宅医療カレッジ特別企画 「地域包括ケア時代に求められる医療と介護の役割」

佐々木淳
医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
プロフィール
筑波大学医学専門学群、東京大学大学院博士課程卒業。三井記念病院、医療法人社団 哲仁会 井口病院副院長等を経て、24時間対応の在宅総合診療を提供する医療法人社団 悠翔会を設立。