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仕事と、在宅ホスピス

2015年8月28日

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在宅ホスピスをやってみて驚いたことは本当にたくさんあります。特に病院の看護師から訪問看護に転職したときは、それまでに本で読んだり勉強したりして学べるようなこととはまったく違った価値観を教えてくれました。

残念なことに、看護師は専門の教育を受け専門の職業につくため、社会の人がどんな仕事をしているのかなかなかイメージできない面があります。在宅ホスピスの訪問看護師をしていると、患者さんが仕事をしながら自宅で過ごしている場面を見かけ、病院とは違った側面から、その人らしさを知る機会となることがあります。

たとえばある喉頭がんの患者さんは、定食屋の店主でした。すでに長男夫婦がお店の切り盛りを行っているのですが、店の奥で座っている姿は「きっとこのお店で一番偉いんだろうな。」と威厳を感じさせるものでした。看護師が訪問し2階の居間で体調を看ながら内服薬の調節などを行うときには、孫と遊び水戸黄門が好きな普通のおじいちゃんに戻るのです。実は、この方は退院前に病院の看護師さんからは「表情が乏しくて、あまり話もしないんですよ。」と申し送られた方だったのです。

また60代の膵臓がんの女性は、介護ヘルパーをしていました。半年前まで常勤として仕事を続けていたけど、治療して副作用で体調を崩すようになってからは、パートタイムに切り替えてもらったとのこと。「体調をみて、やりたいときに仕事ができる」と、とても満足していると話されていました。仕事の負担が気にならないか聞いたところ、「家にいても余計なこと考えちゃうから、仕事している方がいいのよ。お小遣いも入るしね。」と冗談まじりに話されました。体調が悪くなり徐々に仕事に行ける機会も減ってしまったのですが、ヘルパーとして介護していた高齢者の方々の話をいろいろ話してくれました。

50代の肺がんの患者さんは、10代から日本橋や銀座の料亭で仕事をしてきた、ベテランの料理人でした。高級な肉に関してはかなりうるさいとのことで、いい肉の仕入れのポイントや調理の仕方など、かつて仕事をしてきた名店の自慢話やこだわりについて聞かせてくれました。高級料理店に縁のない生活をしている私が珍しそうに話を聞いていたためか、「今度連れてってやるよ。」と笑っていました。病状が進行しているため1ヶ月前に退職することになったことからも、ご本人はそれが難しいことを十分わかっていたと思います。

がん患者の就労支援が「がん対策推進基本計画」の一つのテーマとなっていますが、治療中の患者さんだけではなく、穏やかな時間を過ごすイメージをもっている在宅ホスピスの患者さんにとっても、仕事はその人らしさの一部となっています。東京都のがんと就労に関する調査によると、平成25年に東京都が行った「がんと就労等に関する実態調査」で、患者さんが仕事を続けたい理由として、57%の人が働くことが自身の生きがいであるためと答えています。収入を得て生計や治療費を得るだけではなく、その人の人生において仕事がいかに重要な部分を占めているかがわかります。

がんの進行によって症状が出現し、体力がなくなって仕事を離れるということが、その患者さんにとってどういうことを意味するか。思ったような仕事ができなくなるつらさ、職場の人や顧客に会えなくなるつらさ、周囲に迷惑をかけるつらさを感じる方もいます。あるいは、これまでの自分の実績や誇りを支えに穏やかな時間を過ごす方もいます。

病院ではあまり目にすることができないその人らしさに触れる機会が、自宅にはたくさんあります。また、そこには看護師というケアの提供者としての私だけではなく、人生の後輩として、自然と影響を受けている私自身の姿もあることに気づかされるのです。

 

photo by h.koppdelaney

賢見 卓也
看護師
プロフィール
兵庫県立看護大学卒業。日本大学大学院グローバルビジネス研究科卒業。看護師。MBA。 訪問看護パリアン 在宅ホスピス看護師。株式会社トロップス 代表取締役。NPO法人がんと暮らしを考える会 理事長。

医療法人社団パリアン http://www.pallium.co.jp/
株式会社トロップス http://www.troppus.co.jp/
NPO法人がんと暮らしを考える会 http://www.gankura.org/