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「産後うつ」を知っていますか – 新企画第二弾、はじめます

2015年7月22日

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タイトルバナー:テクノロジーで開拓する、新しい産後うつ予防

「産後うつ」という言葉をご存知でしょうか。

出産直後、産褥期(分娩から6〜8週間後までの期間)、あるいは産褥期を終えたお母さんの一部がかかってしまううつ病のことです。子育てに追われる中、不眠、疲労感、気持ちが落ち着かずイライラする、自分を必要以上に責めるなどマイナス思考が多くなる、などの症状に見舞われます。産前のいわゆる「マタニティブルー」とは違い、対応が手遅れになれば深刻な事態も考えられる疾患です。

しかしこれまでは、産褥期の母親は育児の必要性からもともと自宅から外に出づらく、欧米における研究でも80%が未受診という結果もあるほど、実態が分かりづらいという課題がありました。日本でも大規模な調査はあまり行なわれていませんでしたが、2015年3月に発表された大規模なコホート研究の結果により(※1)、産後うつの産褥期における発症率がかなりの割合であることが改めて明らかになりました。間違いなく産後うつは、女性のライフイベントにおいて大きな障害となりうる問題なのです。

妊娠20週から産後3カ月までの初・経産婦別にみたEPDS陽性者(9点以上)の割合と95%信頼区間
単位:%[出典元:※1の報告書のデータを基に作成]

ようやくはっきりとしたエビデンスをもって、その実態が明らかになりはじめた「産後うつ」ですが、少子化対策の枠組みの中で、子育て支援、母子保健を担保する大規模な施策が検討されています。内閣府ではフィンランドの出産育児相談所「ネウボラ」をモデルに、全国各地に「子育て世代包括支援センター」を創設し、妊娠前から育児期まで、切れ目のないサポートを行なうための仕組みづくりを始めようとしています(※2)。根拠法として「成育基本法(仮称)」がすでに準備されていて、今秋にも成立する予定です。この仕組みには保健的観点から医療者が関わることも想定され、当然「産後うつ」予防をはじめとした母体の健康維持の施策も組み込まれるといわれています。現在、老年医療としての訪問診療、在宅医療の枠組みの中での多職種連携が求められていますが、来年度以降、周産期医療関係者と母子保健、福祉関係者との連携も公式に求められるというわけです。ごく近い将来、この連携をどのように実際にチームビルディングするかという課題が上ってくるでしょう。

実はこの課題の先行事例となりそうな、とあるNPOの取り組みがあります。
NPO法人マドレボニータ(=Madore Bonita、スペイン語で美しい母の意)は、法人化以前から含めると足掛け20年近く、産後女性のボディケア、セルフケアのためのプログラムを提供し続け、いくつかの大手企業や自治体、医療機関との協働を果たすなど、産後ケアを社会に根付かせるべく精力的に活動しています。

NPO法人マドレボニータが行なっている産後ケアプログラムの様子

この同法人が新たに始めようとしている活動のひとつが「産後ケアバトン+」。産後ケアの知識や同法人の産後ケアプログラムの受講チケットを、スマートフォンのアプリを経由してプレゼントすることで、知見を社会へ広げていこうというものです。このアイデアは、非営利団体のみが参加できるGoogleインパクトチャレンジ2014/2015において高く評価され「Women Will賞」を獲得しました(選考理由等はこちら http://toyokeizai.net/articles/-/64675 が参考になります)。同法人は今後3年間、Googleの支援も受けながら「産後ケアバトン+」の実用化に向けて取り組むことになります。

医心はこのGoogleインパクトチャレンジの開催時から、同法人の産後うつへの取り組みとICTの融合に注目させていただいておりましたが、このたび、医心のメンバーでもある宗田医師とマドレボニータさんとの交流から、この「産後ケアバトン+」実用化への活動を連載企画「テクノロジーで開拓する、新しい産後うつ予防」と題し定期的にレポートさせていただけることになりました。ソフトバンク主催のpepper app challenge2015の優勝チームであるプロジェクトチーム・ディメンティアの活動報告と同じように、健康・医療・介護分野のICTの実現過程をレポートさせていただくことで、同じようなかたちで社会課題の解決を目指す方々への有効な知見となることを願っています。不定期連載となりますが、ぜひご期待ください。
《監修:宗田聡(産婦人科医、広尾レディース院長)》

 ※1 「妊産婦のメンタルヘルスの実態把握及び介入方法に関する研究 平成26 年度 総括・分担研究報告書」厚生労働科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業(健やか次世代育成総合研究事業)より

※2 (参考記事)子育て支援:1窓口で 医療・行政、保健師が仲介 議員立法へ