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「薬歴」保存はプロとしての矜持

2015年2月25日

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今話題になっている「薬歴」未保存の問題についてお話したいと思います。
「薬歴」と「調剤録」が混同して報じられているような感がありますので話を整理します。

医療機関が毎月患者毎の診療報酬の請求書を作成支援するのがレセコンなのはご存知の通りです。薬局にはレセコンはありますが、患者毎の薬剤服用歴を記録する帳簿、いわゆる「薬歴」を記録する媒体は、電子媒体:紙媒体=4:6でまだ紙薬歴の方がちょっと多いようですね。

調剤録とは?
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薬剤師法 第28条
薬局開設者は、薬局に調剤録を備えなければならない。
2 薬剤師は、薬局で調剤したときは、調剤録に厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない。ただし、その調剤により当該処方せんが調剤済みとなつたときは、この限りでない。

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薬剤師国家試験の問題になったことのある有名な条文ですが、一般的に薬局のレセコンには調剤録をほぼ自動的に作成する機能がついており、記載すべき事項を紙に印刷するか、第2項のように調剤済みの処方箋に記載すべき事項を印刷すれば良いことになります。

1 患者の氏名及び年令
2 薬名及び分量
3 調剤年月日
4 調剤量
5 調剤した薬剤師の氏名
6 処方せんの発行年月日
7 処方せんを交付した医師、歯科医師若しくは獣医師の氏名
8 前項の者の住所又は勤務する病院若しくは診療所若しくは飼育動物診療施設の名称及び所在地
9 医師などの同意に基づく変更事項
10 医師などに疑義確認をした回答内容
11 患者の被保険者証記号番号、保険者名、生年月日及び被保険者、被扶養者の別
12 その薬局で調剤した薬剤

では薬歴にはどんな根拠があるのでしょうか?
薬剤服用歴の管理に診療報酬の点数がついたのは昭和61年4月からになります。患者毎に調剤した記録である調剤録は、上記のように保存のために調剤済み処方箋と一緒に収納されてしまうので、患者の服用状況などの把握や指導のための記録が他に必要になるのは自然な流れですね。2014年6月に薬剤師法も改正になり、薬剤交付の際には情報の提供だけではなく指導を行うとされています。

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薬剤師法 第25条の2(情報の提供及び指導)
薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たっている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。
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薬歴を備えなければならないとは記載されていませんが、ニュアンス的には指導の記録が残っていなければ指導していないことと同じと見なされてもしょうがないですね。
ということで薬剤師は薬歴をしっかり書かなければいけませんし、請求をしたいなら必ず残さなくてはいけないと理解するのが自然なはず。

保険薬局の療養担当者規則には以下記載事項が示されています。

氏名・生年月日・性別・被保険者証の記号番号・住所・必要に応じて緊急時の連絡先等の患者についての記録
処方した保険医療機関名及び保険医氏名・処方日・処方内容等の処方についての記録
調剤日・処方内容に関する照会の要点等の調剤についての記録
患者の体質・アレルギー歴・副作用歴等の患者についての情報の記録
患者又はその家族等からの相談事項の要点
服薬状況
残薬の状況の確認
患者の服薬中の体調の変化
併用薬等(一般用医薬品、医薬部外品及びいわゆる健康食品を含む。)の情報
合併症を含む既往歴に関する情報
他科受診の有無
副作用が疑われる症状の有無
飲食物(現に患者が服用している薬剤との相互作用が認められているものに限る。)の摂取状況等
後発医薬品の使用に関する患者の意向
手帳による情報提供の状況
服薬指導の要点
指導した保険薬剤師の氏名

 

もちろんこれらすべての項目を、1回の薬剤の交付で完結して記載出来るものではありません。患者さんにかかりつけ薬局を選んでいただき、お気に入り薬剤師に連続して薬剤の交付を依頼することで薬歴の完成度は高まっていきます。
個人的には薬歴をもっと役に立つものにしたいと考えているので、診療報酬の算定要件を満たすだけでなく、患者さんにとって健康の維持・増進に有益な情報を一言二言でも記録しています。また患者さんや地域の医療者の求めに応じ、一部を公開できるようなシステムになってほしいと願っています。
以上まとめますと

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調剤録:どんな薬をどのくらいどんな状態で交付されたかの単回の記録。
薬歴:患者個々の状況に応じて随時更新される連続した服薬支援の記録。
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現在電子薬歴の普及率は50%弱ですが、電子化した薬歴は調剤録への記載事項はすべて網羅し参照できます。患者さんからの問い合わせ対応なども薬歴が無ければ出来ません。超高齢化や疾病構造の変化で世の中のニーズは明らかに薬歴を望んでいます。その期待に応えることが出来るよう、現場の大多数の薬剤師はコツコツと記録を続けていることをご理解いただきたいと思っております。心ある人たちは、誰も薬歴を残さないことを積極的に選んでいるわけではありません。敢えて言うとすれば、現場の負担を増やさずにいかに薬歴を残せるか、勤務体制や業務システムを含めて改善することを考えなかった一部の経営層の不見識。安易に法律の穴をついて不作為を選んだ彼らは、責められてしかるべきではないかと思います。

水八寿裕
ふくろうメディカル代表
薬剤師
東京理科大学薬学部
臨床准教授
プロフィール
1968年福島県郡山市生まれ。
高校卒業後家庭の事情等で医学部を目指すも学力不足により進学を断念。2浪の末1990年東京理科大学薬学部に入学。4年次に就活を試みるもバブル崩壊の影響で就活をストップし大学院へ進学(研究室に居残りという表現が正しい)。
なんとなく有機科学の薬学研究科修士修了。バブル崩壊の影響は2年後も続いており、渋い有機化学(当時はバイオ系が流行)専攻では製薬会社研究所の就職口が見つからずMRで就活すると一発で内定。武田薬品工業(株)にて10年MRとして勤務 その後薬剤師(薬局・大学病院・診療所)人材会社を経て現職。
*ふくろうメディカル:個人事業で医療関連の著作・研修資料作成などを行っています。