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インフルエンザの「非罹患」「治癒」証明が求められる理由

2015年2月5日

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ついにインフルエンザの罹患者が1,000万人を越えたようで、この流行、収まりませんね。

そんな中、この時期いつも話題に上りますが、身近な人でこのような体験をされた方がおりましたのでちょっととりあげてみます。

園長:あなたのお子さんの熱は何度ぐらいですか?もしかしてインフルエンザですか?

私:いいえ、違いますよ。下の子(8カ月)が39度の熱を出しましたが、この子は平熱ですから。

園長:インフルエンザではないことを証明していただかないと私たちも困るのです。可能なら自宅に連れて帰って頂けると助かるのですが・・・

私:え?下の子はおそらく突発性発疹による発熱なので、インフルエンザではないですよ。

園長:そう仰られましても、現在園内でも流行しておりまして。数人休んでいるので疑いがあればお休みいただいてます。下のお子さんがインフルエンザではないことを確認するために、必ず医療機関の受診をしていただき結果をお電話ください

私:えーっと、一応私も医療の仕事をしているので下の子供がインフルエンザではないぐらいの判断は出来ますけれども。しかし医師ではないので診断は出来ませんが、検温以外健康チェックは二人とも行ってますけれど。

園長:どうかご理解ください。

私:…。

 

いまこんなやりとりが、日本全国(沖縄以外?)で行なわれているのだと思います。
しかし正直、これはちょっと困るのです。「インフルエンザが治癒しました」あるいは「この人はかかっていません」という、「ないこと」の証明はできないのですから(未知論証:別名は悪魔の証明)。
臨床的症状がなくなったとしても、体内からウイルスが完全に排出している可能性は絶対にゼロではないですし、医療者なら常識ですが、いくらインフルエンザ検出キットを使って検査しても「ウイルスがゼロである」ことは残念ながら分からないのです。しかもこの証明はもちろん診断書扱いで、有料です。無益なことにお金がかかってしまうわけです。
これは意味がないのでやめましょう、ということは厚労省も折に触れて表明しています。

(参考)新型インフルエンザ(A_H1N1)に関する事業者・職場のQ&A(平成21年10月30日)
※Q5をご覧ください

また学校保健法上も、証明をする必要性については何も書かれていません。さらに厚労省は別途、通達で「治癒証明書を取得させる意義はない」、その旨周知するようにとはっきり書いています。

(参考)学校保健安全法より

第四節 感染症の予防 (出席停止)

第十九条  校長は、感染症にかかっており、かかっている疑いがあり又はかかるおそれのある児童生徒等があるときは、政令で定めるところにより、出席を停止させることができる。

※治癒証明書提出義務の記載はない。

(参考)各新型インフルエンザによる外来患者の急速な増加に対する医療体制の確保について

さて、意味がないことは止めましょう、で終えるのは前向きでないので(笑)ここからが本論です。これだけはっきりしていることがなぜ理解、周知されないのか。特に保育園だとこういう話をよく聞きます。

私見ですが、それらの保育施設は「預かる」ことが使命であることと、学校、幼稚園のように学級閉鎖の基準が適用される範囲外だからではないか?と考えています。つまり感染拡大のために取るべきルールが保育施設に限っては明確に定まっておらず、園の管理者の方もどうしたらいいか分からないので、そのような証明を求めてしまうのではないでしょうか。

(参考)保育所における感染症対策ガイドライン
※27ページ目に「保育所は学校とは違って、感染症の流行に伴って臨時休業を行う法的根拠は元々なく」と記載がある。

一般的に保健所が指導等を行なうのは、保育所で感染が「起こってから」ということがほとんどで、予防も含め、包括的に保育所の感染症対策をフォローアップする仕組みがありませんでした。医療関係者が関わるチャンスももちろんありません(個々に患者を診断するということ以外で)。

ただ、一方で、そのエアポケットを埋めようという動きも広がっています。国立感染症研究所が提供する「保育園サーベイランス」というシステムです。

(参考)症候群サーベイランス  - 感染症  早期探知システムのご紹介

任意で加入するものですが、参加している施設がこのシステムに感染で休んだと思われる児童の情報を入れれば、地域の保健所、保育課でオンタイムに情報が共有され、拡大防止のために早期に対策が行なえ得るというものです。適切な情報流通がなされれば、意味のない証明書の発行に医療資源が費やされることはなくなるでしょう。

私たち医療者も、目の前の医療行為だけではなく、適切な機会をとらえ、

○いい仕組みがあるなら活用する
○仕組みがないならつくるように努力する
○そしてそれを受益者に伝え広げる

そんな活動をしていかなければ、と改めて思います。

水八寿裕
ふくろうメディカル代表
薬剤師
東京理科大学薬学部
臨床准教授
プロフィール
1968年福島県郡山市生まれ。
高校卒業後家庭の事情等で医学部を目指すも学力不足により進学を断念。2浪の末1990年東京理科大学薬学部に入学。4年次に就活を試みるもバブル崩壊の影響で就活をストップし大学院へ進学(研究室に居残りという表現が正しい)。
なんとなく有機科学の薬学研究科修士修了。バブル崩壊の影響は2年後も続いており、渋い有機化学(当時はバイオ系が流行)専攻では製薬会社研究所の就職口が見つからずMRで就活すると一発で内定。武田薬品工業(株)にて10年MRとして勤務 その後薬剤師(薬局・大学病院・診療所)人材会社を経て現職。
*ふくろうメディカル:個人事業で医療関連の著作・研修資料作成などを行っています。