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豊かな一人暮らし

2014年7月25日

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在宅ホスピスをやってみて驚いたことは本当にたくさんあります。特に病院の看護師から訪問看護に転職したときは、それまでに本で読んだり勉強したりして学べるようなこととは全く違った価値観を教えてくれました。

病院で看護師を行っているときに、一人暮らしの患者さんが自宅でどんな療養生活を送っているのか本当に「謎」であり、「心細い」「さみしい」ものを想像していました。しかし、訪問してみて分かったことですが、一人暮らしの患者さんはとてもたくましい面をもっているのです。

ある80代の大腸がんの男性は最期まで寝る前のウィスキーとタバコは決して辞めることはありませんでした。奥さんとは10年前に死別し、自分の長男・長女は独立して電車で1時間くらいのところにそれぞれ所帯をもっています。

つい最近まで挿絵の仕事をしていたこともあり、夜型の生活のペースが周囲と合わないとのことでした。私が「心細くなることはないんですか?」なんてたずねると、「結構、一人も気楽でいいもんだよ。」と一服しながら答えてくれます。ベッドで過ごす時間が長くなり、トイレに行くのも大変になったころですら、長男夫婦が心配して泊まりにくると、嗄れた声で「あのぅさ~、うるさいから帰ってくれないかなぁぁ。」と。

家族も報われないように思われますが、「こんな人ですからね。」と重々承知の様子でした。医師や看護師ができることはシンプルで、がんによる痛みを抑えつつ、やりたいことを支えるだけでした。

ある70代の肺がんの男性は生涯独身でした。そんな彼はつい2ヶ月ほど前までいつものスナックに行くことも何とかできていました。ところがその後、家から出ることも大変になったため介護保険のヘルパーさん達が本人の身の回りの手伝いをするようになりました。

私が訪問した際にも「あぁ楽になった。ありがとねぇ。ありがとねぇ。」と皺だらけの顔でニタッと笑うことがあったのですが、同じように愛嬌のある彼はヘルパーさん達からも人気でした。そのため、一人暮らしで徐々にベッドから出ることができなくなっているにも関わらず、身の回りのことはなんだかんだと充実するようになりました。

亡くなってから遠方の兄弟も駆けつけ、「自由な人でね。どこでも友達作っていたんだけど、最期までこんなにいい人に囲まれて。」と、勤務の合間を縫って集まったヘルパーさん達にあいさつされていました。その人の生き方や「らしさ」を感じられる最期でした。

一人暮らしの高齢者というと、独身の人だけがそのような将来をむかえることを想像しがちですが、実際には子どもがいても仕事で遠方に住んでいたり、配偶者に先立たれたりした方も多く、誰もが同じような状況に陥る可能性があります。

しかし、急にそうなった人ばかりではなく、5年・10年・数十年かけてその生活が維持されてきたのだとすれば、それも一つの人生であり、ご本人にとっては何ら違和感のないことだということに訪問看護をやるようになって、初めて気づかされたのでした。

賢見 卓也
看護師
プロフィール
兵庫県立看護大学卒業。日本大学大学院グローバルビジネス研究科卒業。看護師。MBA。 訪問看護パリアン 在宅ホスピス看護師。株式会社トロップス 代表取締役。NPO法人がんと暮らしを考える会 理事長。

医療法人社団パリアン http://www.pallium.co.jp/
株式会社トロップス http://www.troppus.co.jp/
NPO法人がんと暮らしを考える会 http://www.gankura.org/