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見えない壁

2014年5月15日

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先日、往診している施設の高齢者の方で、意識レベル低下、SATも低下していたため肺炎が疑われ、緊急入院となったケースがあった。肺炎ではないと診断され施設に戻されたが、症状が改善したわけではない。

血液データ上、ナトリウム121mEq/lと顕著な低下が見られた。
これが意識レベル低下の原因ではないかと推測された。
では、この低ナトリウムの原因は?

脳梗塞後遺症で経管栄養中の高齢者。
浮腫や脱水徴候はなくSIADHなどの可能性も考えつつ、施設の関係者などにお話を聞くと、私ども医療チームが指示した経管栄養以外に、なんと1日に2リットルの水が投与されていたことが判明。このことから、塩分の少ない経管栄養に加え、大量水分投与からくる大量排尿により低ナトリウム血症をきたしたのではないかと診断、経管栄養で指示した以外の水分投与を控えていただくように、施設の方に指示させていただいた。
1週間後、ナトリウムは139mEq/lまで改善されていた。

よかった、一件落着。…ではない。

なぜこんなことが起こったのか、原因は探らなければならない。経管栄養は当然、必要な熱量・水分量を検討した上で指示をさせていただいているわけだから。

後日、できれば指示を守って欲しいとやんわりと伝えたが、施設側のスタッフより
「健康を維持するためには食事以外に1.5~2リットルは水が必要」という方針で管理されていることを、そのとき初めて聞いたのだった。
それを聞いた上で、改めて経管投与量(それでも1日1500ml)を守るよう再度伝えると、
「こんなに少なくて大丈夫!?」というざわめきが施設スタッフ間で起こった。

これは一体?違和感を覚えずにはいられなかった。
医療としての指示は、私たちが専門的に管轄させていただいているはずだ。優越ではなく、単なる健康維持の話と医療としての指示は違う。もっと聞いてみると、施設側にも医療面をみる医師やスタッフがいて、そこからの指示だということが分かった。つまり、それも「医療としての指示」扱いになっていたのだ。私ども医療チームはその存在も知らなかったし、その指示内容も知らなかった…

私たち専門家が任されているのは単なる往診という「作業」ではなく、受け持った方の健康面を全般的にみる「仕事」のはず。自分たちが信頼感を与えられていなかったのかもしれないが、情報共有の面で欠いてはならないことが起こってしまったということだ。

施設においてしっかりと健康管理を行うには、訪問診療を行う医療チーム側と施設側双方の医療面の情報共有や意識の擦り合わせが不可欠。在宅医療への比重がこれからどんどん増していくこれから、このケースは反面教師として肝に命じなければならない。

佐々木淳
医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
プロフィール
筑波大学医学専門学群、東京大学大学院博士課程卒業。三井記念病院、医療法人社団 哲仁会 井口病院副院長等を経て、24時間対応の在宅総合診療を提供する医療法人社団 悠翔会を設立。