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「信頼関係」という宿題

2013年12月5日

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「明日、訪問看護の看護師さんが来るから。オレ戻んなきゃいけないんだよ。」

と自分の父親の誘いを断ったのは60代の末期の肺がんの患者さん。
実は、彼が話した相手は亡き父親でした。

そのときの彼は昏睡状態であり、そろそろお別れの時期が来ると医師も家族も認識していました。しかし、翌朝になって昏睡状態から目を覚ました彼は寝たきりながらも「オヤジに断って来ちゃったよ。」と苦笑い。それを聞いた彼の兄弟は、「このバカが、死んだふりしやがった!」と笑いながら話したのでした。

また、80代の卵巣がんの女性は静かな最期が迎えられるところまで来ていました。しかし突然、病院の緩和ケア医から連絡が入りました。「○○さんのご主人から入院の相談がありました。まずは在宅の先生と看護師に相談しなさいと伝えましたのでよろしくお願いします。」とのことでした。

 看護師としては苦しみもなく、このまま静かな最期を迎えられるのではないかと感じていたところであったので、寝耳に水のような驚きがありました。看護師にそのような素振りを全く見せなかったのですが、看護師が考えている以上に夫は不安と疲労を抱えていました。

 看護師として在宅のケア体制を整え、苦痛の緩和を同じように行っているつもりでも、信頼関係が簡単に築けるケースと築けないケースがあります。それぞれの反省と共に大きな宿題をもらいました。未だに回答はできていませんが、ヒントは患者さんと家族の中に、そして私自身の姿勢や考え方の中にあるのではないかと考えています。

 最近、脳機能の研究が進んだことによって痛みの認知と情動の関連が明らかにされるようになってきました。このことは不安やストレスの軽減によって、がんの身体的な痛みの緩和へと結びつくことも説明できるものだそうです。こうして考えると、信頼する医師の処方薬、信頼する看護師のケアなども不安やストレスの軽減として、身体的な苦痛の緩和に結び付くというのは飛躍しすぎでしょうか。

 いずれにしても、先の2人の患者さんは、私に信頼関係を築くことが在宅ホスピスケアの質を下支えする重要な土台であることを教えてくれたのでした。

photo by Renaud Camus

 

賢見 卓也
看護師
プロフィール
兵庫県立看護大学卒業。日本大学大学院グローバルビジネス研究科卒業。看護師。MBA。 訪問看護パリアン 在宅ホスピス看護師。株式会社トロップス 代表取締役。NPO法人がんと暮らしを考える会 理事長。

医療法人社団パリアン http://www.pallium.co.jp/
株式会社トロップス http://www.troppus.co.jp/
NPO法人がんと暮らしを考える会 http://www.gankura.org/