医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

子どもを持つということ(6)「性(セックス)教育」ではなく

2013年8月22日

このエントリーをはてなブックマークに追加

「性(セックス)教育」ではなく「生教育」を広げて

前回マタハラが蔓延している現況を鑑みて、性知識の啓蒙に関し「基礎的な知識」を医学的観点から広く国民全体に加えさせてもらえれば、正しい意識改革を進めることができるのではないか」…と提言させていただきましたが、今回もその流れを踏まえて、より具体的にお話ししたいと思います。

そもそも正しい知識がほとんど共有されていない原因としてもっとも大きいと感じるのは、「性教育」という言葉そのものに関する誤解です。本来はこの言葉の示す範囲は考えられているより広いのですが、どういうわけか性行為に関連する内容のみが性教育だという根本的な誤解が広がったまま放置されてしまっています。私たち医療者からすれば、卵子が老化すること、閉経する年齢などが知られていなかったことにむしろ衝撃を覚えました。

では、なぜ知られていないのか?
学校社会や国内教育者の旧態依然たる思考や制度であったり、相変わらずムラ社会的でお役所仕事の教育行政の話に飛び火してしまうのでその方面の話はしませんが(笑)、見方を変えれば、これまでその「欠落」についてしっかりと指摘できていなかった責任が私たちひとりひとりの大人にあったのかなと思っています。それがまわりまわって、女性が自分自身の体のことについてよく分からないまま、結果的に今の日本の少子化、妊婦の高年齢化につながっていっているのでしょう。私が前回、良質な情報を提供することも社会的な責務だと申し上げたのは、そのような意味も含んでいるのです。

本当に知って欲しいことの例は枚挙にいとまがありませんが、大きなもので言えば「基礎体温」もまだまだ知られていない大事な事柄です。言うまでもなく、妊娠したいと思っている女性は必ず学ぶものですが、医師としては、すべての女性がいつも気にしてほしいと考えていることのひとつです(もちろん男性も理解してあげてほしいことです)。なぜなら、妊娠しやすい時期の判別に役立つというのはメリットのほんの一部でしかなく、女性の健康にさまざまな面で影響を与えるホルモンによる体調リズムを知ることで、毎日を健康に過ごすために何が必要かが分かってくるからです。妊娠するための豆知識、のような扱い方は正直言ってまったく正しくない。

拙著『31歳からの子宮の教科書』では、本としての切り口という意味で「31歳」という数字を出しましたが、ある意味これはどうしても気付いて欲しいから使った方便です(知って欲しいボリュームゾーンがその年齢層だ、というのもありますが)。31歳どころか、その前の20代の女性にちゃんと読んで知ってもらいたい知識でもあり、一方で、40代50代の更年期以降の女性にも知ってもらいたい知識を織り込んだ本になっています。自分の様子をオンタイムで体感している時期に知っていて欲しいのです。

そしてそれは男性にとっても言えます。男女ともに、お互いの身体の特徴や生理(生物学的な仕組み)を学んでおけば、それぞれ何が違い、何か一緒なのかを十分理解することができるはずです。そして、その男女の「性差」とそれが自然なことを早い段階に知れば、お互いを尊重することが強固な価値観として根付いてくれますし、現在の、男性社会に女性が合わせることを半ば強要する、奇妙な男女平等論も駆逐されていくでしょう(いえ、駆逐されなければなりません)。

人が生を受けて、歳をとって、死んで行く。その、当たり前のことが当たり前の知識として今の日本の若い人に伝わっていないことに、未来の日本、将来の日本の行く末が心配になります。「生教育」、つまり、人を愛して、子どもができ、歳をとって、病んで老いて命が途絶える。その教育をもっと小さいうちから学んでもらいたいと思っています。

宗田 聡
産婦人科医
プロフィール
茨城県出身。医師、医学博士。専門は、産婦人科医(周産期医療、出生前診断、胎児医学、遺伝医学、メンタルヘルス、医療倫理、プライマリケア、医療IT、女性医学)。日本産科婦人科学会認定医・指導医、臨床遺伝学認定医・指導医、認定産業医・スポーツ医、アメリカ人類遺伝学会(ACMG)上級会員(Fellow)
 母校の大学病院で講師として臨床医療・教育・研究に関わり、留学後に幅広い医療、特に女性の心とカラダの健康を総合的にサポートする医療を理想として、地域周産期センター長を歴任後、都内で都市型かかりつけ医のクリニックを開業。
 日英論文多数、専門書(翻訳)執筆にも定評があり、一般誌でも「Anecan」など様々な雑誌で女性の健康に関する記事を多数執筆。著書には、「産後ママの心と体をケアする本」「産後うつ病ガイドブック」「ニューイングランド周産期マニュアル第二版」など。