医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

子どもを持つということ(5) そもそも、子どもを持つなと言う社会

2013年7月4日

このエントリーをはてなブックマークに追加

ここ最近「マタハラ」が話題になっているようですね。
にわかにテレビや週刊誌で報道されています。

参考記事:

セクハラより多い“マタハラ”  職場の妊婦への無理解が流産招き少子化解消を阻む
マタニティーハラスメントの実態

妊娠・出産にあたって職場で受ける嫌がらせについては、実はあくまで個人レベルですが、患者さんや仕事仲間から何度か聞いたことがあります。
そのたびに、曲がりなりにも先進国である日本で、本当にそんなことがあるのか!?と憤っていました。ただ、一昔前までは結婚を機に、妊娠を機に、会社を退職する女性がほとんどだったことを考えると、その変化のスピードにまだまだ会社が、会社で働く人たちの意識が追いついてないのかもしれません。寿退社、なんて言葉はもう死語になっているのでしょうか?

先頃、労働組合がこの問題に関して調査を実施し、相談窓口を設置するなどしたのでいよいよ顕在化した、ということなのでしょう。あまり望ましくないかたちですが、「マタハラ」が問題として意識されてきたこと自体は、少子化問題解決の機運が高まってきたことの証左なのかも知れません。

ただ私から見れば、この妊婦さんへの不当な攻撃の原因ははっきりしています。
前回も申し上げましたが、日本では妊娠から出産、乳幼児の育児まで、女性も男性もともに知ってしかるべき、性教育も包括する「生」に関する教育、啓蒙がまったくなされていないからです。もっと正確に言えば、その一部でしかない性教育ですらほとんど行なわれておらず、さらに、無知が放置されるどころか間違った情報までが多く横行しています。このような状態では、子供を産み育てることの正しい理解ができるはずもありません。

妊娠や、健康な赤ちゃんを産むこと、
健やかに育つ環境を整えてあげることの困難さ、貴重さ、かけがえのなさ。
そして子どもを育て次代をつくることが、社会に持続性という無上の価値をもたらすこと。
論を待たない普遍的な価値です。
このことは、奥さんが妊娠するなど当事者になった人は、勉強をしますので当然のように理解します。しかし身近に妊娠した女性や乳幼児を育てる家族がいない人たちの中には、この当たり前のことに気付かない人もいます。これは男性のみならず、同性である女性もです。

それはなぜでしょうか。知識がないからです。

人は悲しいかな、どこまでも自分の知っていることの中だけで判断しがちです。そして子どもをめぐる「生」の情報に関しては、繰り返しますがまったく情報が届けられていないのです。男性はもちろん、女性も昔と違い30代、40代でも未婚、出産経験のない人が非常に増えてます。マタハラは、「無知は罪」を具現化してしまっている典型的な例とも言えるでしょう。

生殖医療に携わっている私たちは、良質な医療技術を提供することはもちろんですが、こうした教育や、啓蒙が必要だという「啓蒙」も含めた、良質な情報を提供することも、社会的な責務として認識しなければならないと感じています。少子化問題の克服に向け政府でも検討会が開催され、また一部の会社ではコンサルタントを受入れ社内制度の改革など行なっていますが、制度改革や保育所増設施策など「実践論」から入る向きが多いのかなと感じています。もちろんそれは必須、かつもっともっと拡充させなければならないことですが、医療者としては、そこに「基礎的な知識」を医学的観点から広く国民全体に加えさせてもらえれば、正しい意識改革を進めることができるのではないかと考えています。

どのような制度も、それを使う人の意識が間違っていれば役に立ちません。いま現在でも有名無実化している制度は、たくさんあります。それは、制度に関わる人が年配であったり、子供を産み育てることに感心のない方が関わっているからなのではないでしょうか?そうでないことを強く願っていますが、実際にはなかなか話が前に進んでいないように思えます。

国民一人一人が、妊娠することや、妊婦さんとその家族、そして子育てしている家族に対して、優しい目と温かい心を向ける、そんな国、日本であって欲しいと強く願っています。自分のことばかり考える風潮が強い今の日本ですが、相手を、他人を、自分のことの様に愛せる素敵な国「日本」だと、皆が胸を張って言えるようになりたいですね。

宗田 聡
産婦人科医
プロフィール
茨城県出身。医師、医学博士。専門は、産婦人科医(周産期医療、出生前診断、胎児医学、遺伝医学、メンタルヘルス、医療倫理、プライマリケア、医療IT、女性医学)。日本産科婦人科学会認定医・指導医、臨床遺伝学認定医・指導医、認定産業医・スポーツ医、アメリカ人類遺伝学会(ACMG)上級会員(Fellow)
 母校の大学病院で講師として臨床医療・教育・研究に関わり、留学後に幅広い医療、特に女性の心とカラダの健康を総合的にサポートする医療を理想として、地域周産期センター長を歴任後、都内で都市型かかりつけ医のクリニックを開業。
 日英論文多数、専門書(翻訳)執筆にも定評があり、一般誌でも「Anecan」など様々な雑誌で女性の健康に関する記事を多数執筆。著書には、「産後ママの心と体をケアする本」「産後うつ病ガイドブック」「ニューイングランド周産期マニュアル第二版」など。