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子どもを持つということ(4)「不妊予防」を本気で考える

2013年5月10日

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少子化に歯止めをかけ出生率の改善を図るには、子育て関連の福祉政策の整備と、出産したら社会復帰が難しい人が出てくるという、まったくもって世界に顔向けできない恥ずかしい現実をどうにかするのが急務なのは当然なのですが、もちろん医学的観点からもやることはたくさんあります。

その対策のキーワードは、一言にすれば、「予防」。
生活習慣病やがんには、とうの昔から予防の視点が導入され、さまざまな社会的施策とともに資源も投入されています。医療費削減という国家的使命が課されているので当然なのですが、であれば、少子化問題解決も国家的使命ですから、生殖医療の領域にも本格的に予防の観点を導入したらどうでしょう?

たとえば、女性の場合、子宮内膜症や性感染症であるクラミジア感染など不妊を誘因しかねない疾患の予防策をもっと積極的にに推進すべきではないでしょうか。子宮内膜症は、罹患した患者さんが非常に痛くて辛いという根本的な問題もありますが、さらに子宮内膜症の患者さんにおける不妊率が健康な場合よりも高く、治療期間も長くなりがちであることが大きな問題になっています。早期に治療に取り組めば、外科的手段を用いることなく母体をできるだけ傷つけずにいい状態へと持っていくことができ、すこしでも不妊の割合を下げ、出生率を上げる一助になれるかもしれません。

近年、ようやく日本で子宮内膜症の治療のために用いられるようになったのが、いわゆる「低用量ピル」。マスコミなどで何度か報道されたおかげで避妊以外の用途が知られるようになり、内膜症にも有効であることが、ある意味驚きを持って迎えられました。しかし、まだまだ医療者も含めきちんと啓蒙できていないのが実態でしょう。

「避妊」というこの薬にまとわりつく言葉が正しい姿を見えなくしているのかもしれませんが、内膜症への効果のほかにも、月経周期の乱れを穏やかにしたり、月経時の出血を少なくし、卵巣がんや子宮体がんの発生率をおさえる効果も報告されています。避妊薬としての一時的な目的で使用するのではなく、近年の晩婚化や高齢妊娠の状況を考えると、ある意味母体のコンディションを整える総合的なツールとしての価値を見いだせるものだと思います。私たち婦人科医、産科医もこの点を患者さんに積極的に啓蒙し、各方面にもはたらきかける必要があるのではないでしょうか?

性感染症であるクラミジア感染症も不妊の原因の一つとして大きな問題になっています。中高生における学校での性教育は惨憺たるもので、「寝た子を起こすな」「道徳の問題である」「学校ではきちんと教えているので、あとは家庭の問題」との関係者からの声もよく聞こえてきますが、今の日本の20~30代の男女がどれだけしっかりと性感染症について正しい知識をもっているのでしょうか?外来では日常茶飯事として、クラミジア感染が見つかり治療している未婚女性が後を絶ちません。彼女たちの治療が遅れたり、放置されていたりすれば、クラミジア感染は「上行感染」といってお腹の中にまで感染が広がり、妊娠するために大事な卵管に炎症や癒着を起こして、将来不妊へ導く可能性がでてくるのです。

日本では「性」教育といわれるためか、若いうちに必要な知識を正しく学ぶ機会が少なく、大人になってから怪しげな情報や友人からの伝達情報によって「歪んだ性」教育を独自に受けてしまっていることが多いようです。もっと人間として生きること、死ぬことを含めた「生」教育をしっかりと受けさせていかないといけないのではないでしょうか?そのことが、将来の性感染症の予防にもなり、不必要な妊娠中絶の予防にも繋がっていくと思います。

生殖医療の分野では、まだまだ予防を本気で考えようという気運が少ないと感じます。これにはさまざまな要因がありますが、ひとつ言えることは、医療者も患者さんのよりよい環境づくりのために、診療以外のことも積極的にやらなければならないだろうということです。

宗田 聡
産婦人科医
プロフィール
茨城県出身。医師、医学博士。専門は、産婦人科医(周産期医療、出生前診断、胎児医学、遺伝医学、メンタルヘルス、医療倫理、プライマリケア、医療IT、女性医学)。日本産科婦人科学会認定医・指導医、臨床遺伝学認定医・指導医、認定産業医・スポーツ医、アメリカ人類遺伝学会(ACMG)上級会員(Fellow)
 母校の大学病院で講師として臨床医療・教育・研究に関わり、留学後に幅広い医療、特に女性の心とカラダの健康を総合的にサポートする医療を理想として、地域周産期センター長を歴任後、都内で都市型かかりつけ医のクリニックを開業。
 日英論文多数、専門書(翻訳)執筆にも定評があり、一般誌でも「Anecan」など様々な雑誌で女性の健康に関する記事を多数執筆。著書には、「産後ママの心と体をケアする本」「産後うつ病ガイドブック」「ニューイングランド周産期マニュアル第二版」など。