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いま、求められる鳥インフルエンザ対策は(高山義浩先生に聞く)

2013年4月18日

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3月31日、中国の国家衛生・計画生育委員会はWHOに対し、国内でインフルエンザA/H7N9に3人が感染したと通知しました。これらはヒトへのA/H7N9感染が確認された最初のケースで、その後徐々にではありますが感染が拡大しています。

※関連ニュース
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4/16時点での当局の発表は、感染例78人、死亡例16人となっています。パンデミックを極度に恐れることはないかと思いますが、今回は国のインフルエンザ対策にかかわっておられる高山先生に、現在の状況分析と提言をお願いしたいと思います。

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QLife:まず、ニュース以外で先生が補足したいこと、注目すべきとお考えになっている点はありますか。

高山義浩先生(以下高山):そうですね、最初に注目したのは、上海市と安徽省の患者それぞれから分離されたウイルスにおいて、遺伝子の変異した部位の配列が一致していたということでした。その後も鳩などの鳥類から分離されたウイルスを含め、遺伝子の相同性がそれほど変わらないという情報が重なっています。これはウイルスが広範囲に拡がっている可能性を示唆していると思います。ただ一方で、広範囲で発見されているのに孤発例ばかりで集団発生になっていません。かつてのSARSのように、医療従事者の感染事例が報告されていませんので、それほど感染力は有していないだろうと私は思います。

情報を総合して考えると、かなり前からA/H7N9は発生していて、じわりじわりと拡がっていたのでしょう。それに気づいたのが先月だったというだけなのではないかと。

QLife:なるほど。では、先生としては、このまま一本調子に感染ペースが上がってくる、とはみていないと。

高山:しばらくは、16日にあったような報告が続くと思います。しかしどこかで数が頭打ちになるはずです。そうでなければ、それはウイルスがヒトへの適合性を獲得した、すなわち本格的な新型インフルエンザの発生という事態に進展したということになります。

QLife:そうなると、ステージが上がって緊急性が増しますね。

高山:WHOはWebサイト上でFAQを公開していますが、「ヒトからヒトへの感染を起こしたとする証拠はない」としています。ただし、「起こしていない」と断言することもできないので、現在は調査中であるということです。それ以上の新情報は公式には出ていませんし、いまのところ「水平感染を確認していない」と繰り返し強調しています。

ヒトからヒトへの感染のしやすさを測りうるのは、実際に患者と接してきた家族や医療従事者への感染があったかどうかだと、私は思います。感染症について単純化したモデルのみで論を決するのは早計ではないかと思います。疫学研究者の報告を待つべきです。

QLife:2009年3月のメキシコの流行では、カナダの機関が同定を行いましたが、今回は日本の機関ですね。

高山:日本の国立感染症研究所は、かなり早い段階から、発生しているウイルス遺伝子情報の提供を中国当局より受けており、その配列の分析をしていました。個人的には、中国が国内の感染症情報を迅速に公開し、さらに遺伝子情報を日本の研究機関に渡したことに驚きました。というのもこの方面についての中国の隠ぺい体質には、かなり定評がありましたので…。SARSの教訓に学んで危機管理体制が適正化されたのか、あるいは新政権で情報公開への決断がみられたのか、はたまた隠しきれないほど拡大している事実を掌握してしまったのか……。

QLife:確かにそういう可能性は考えられるかもしれませんが…。

高山:いずれにせよ、せっかくの中国からの情報提供について、一部のPM2.5報道にみられるような「今度はインフルか、まったくはた迷惑な話だ」と低レベルな反応を返すのではなく、「よくぞ迅速に情報公開した」と謝意を伝える姿勢が日本人には必要ではないでしょうか。

QLife:それは本当に仰る通りだと思います。

高山:また、この感染症への不安にかられて、むやみに中国人観光客を忌避するようなことがあってはなりません。これは胸襟を開きかけた中国に泥をすりこむ行為です。最悪の場合、今後、日本だけが情報をもらえないということにもなりかねません。

今回、ウイルスのゲノム配列を世界に先駆けて日本が現地からもらえたことは極めて貴重なことなんです。確定診断のためのPCRプライマーを世界に先駆け開発でき、抗インフルエンザ薬の耐性遺伝子の有無も真っ先に確認でき、そして世界でもっとも早い段階でパンデミックワクチンの開発準備が始められるわけですから。こういう水面下の情報交換/協力関係というのが極めて大切です。

QLife:いま医療関係者はどう認識し、対処すべきだと思いますか。

高山:まずは心配する一般の方に対しては、「いまのところ具体的な対策をとる必要はありません」とお伝えいただくことでしょうね。さきほど申し上げましたが、中国からの旅行者についてもこれまでと同様にもてなしていただくこともです。

ただし医療体制としては、少し構えをとった方がよいかもしれません。とくに、新型インフルエンザの院内ガイドラインについて、関係者で再確認しておくことをお勧めします。いまから危機をあおる必要はありませんが、復習するにはいい機会ではないでしょうか。

と、周りに提言しておいてじゃあ自分はどうなんだ、という話なんですが(笑)、いま私のいる沖縄では、本土よりさらに具体的に動かなければと思っています。もし、A/H7N9が新型インフルエンザに発展するなら、最初の主戦場は沖縄だ、と考えているからです。沖縄ではインフルエンザは夏に流行するのですが、大陸から持ち込まれているであろうことは明らかですし、2009年の新型インフルエンザでも、最初に本格的に流行したのは沖縄でした。今回の発生源が中国華東であることからも、同様の経過をたどると考えた方がよさそうです。つまり、今年の夏のインフルエンザはA/H7N9で流行するのではないか?と考えているわけです。

今から私たち沖縄の医療関係者が行政と連携しながら始めるべき対策としては、中国からの旅行者の発熱患者の取り扱い、その際の保健所との連携内容の確認、感染防護具の備蓄状況についての確認などですね。

QLife:ありがとうございました。


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話者/高山義浩(たかやま よしひろ)
沖縄県立中部病院感染症内科勤務
元:厚生労働省健康局結核感染症課 新型インフルエンザ対策推進室課長補佐
Photo By AlamosaCountyPublicHealth