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子どもを持つということ(3)妊娠前に予防接種を済ませよう!

2013年4月5日

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予防接種とは、その名の通り、「病気を予防するため」に行う医療行為です。主に深刻な感染症予防のために行われ、感染症にかかるリスクを大幅に下げることを目的としています。なぜか、子どもが打つものというイメージが強いようですが、勿論、大人でも打ちます。
最近、この予防接種に関するニュースがいろいろ続いています。医師の間でもいろんな意見があるようですが、今一度、予防接種についてきちんと整理して考えてみたいと思います。

もともと、予防接種は大流行しやすいうえに治療方法のない、甚大な被害が見込まれる病気から人類を守るために行なわれてきた「智慧」と言えるものです。例えば、麻疹など、1人が発症すると周りの12〜18人が感染するような大流行しやすい感染症の場合は、自分だけ予防できればいいというわけではありません。周りへの影響を減らすためにも、集団全体にワクチンが大切なのです。ちなみに1人の患者が発生させる新たな患者数は、インフルエンザで3~4人、風疹で6~7人、と言われています。

予防接種が本当に効果があるのか?などと、最近ネット等で疑問を呈する向きがありますが、私から言わせてもらえば、きちんと歴史と数字を見直して考えていただきたい、という気持ちです。天然痘を例にあげましょう。感染力、罹患率、致命率が非常に高いこの恐るべき病気に対し、世界保健機構(WHO)は1958年、世界天然痘根絶計画を立てました。当時、この病気の世界での発生数は推定で約2,000 万人、死亡数は400万人でした。この数字の多さが想像できますか。400万人もの人が感染症で死んでいた、そんな時代もあったのです。
しかし、天然痘の患者を見つけ出すたびに、その患者周辺に天然痘ワクチン(種痘)を集中的に接種させ、その地域から天然痘を封じ込めるという手法を地道に続けることで、1977年ソマリアにおける患者発生を最後に、地球上から天然痘はなくなりました。そして1980年5月、WHOは天然痘の世界根絶宣言をするに至ったのです。いま、一部で「効かない!?」などと言われているワクチンによって、年間400万人もの命を奪って来た病気を、なくすことができたのです。

今の日本の人は、本当の病気の恐怖を知らずに育った「箱入り娘」たち。すぐにネット等で流される根拠の薄い情報に流され、それをさらに多くの人にバラまいてしまう、いわば「ネット伝染病」にさいなまれているとも言えるのではないでしょうか。冷静に予防接種を受けるリスク、受けなかった場合のリスクをそれぞれ考えてみてください。

まだ例をあげましょう。日本脳炎、これも1960年代半ばまでは日本で毎年数千人の発症例がありました。ワクチンの普及とともに減少し、現在は年間数人となりました。数千人から数人です。改めて言うことでもないですが、劇的な効果があったことは明白です。
もし、予防接種せずに脳炎になってしまうと治療方法がなく、感染者の実に半数はてんかんや発達の遅れなどの後遺症が残ってしまいます。
昔の悲惨な状況を知らずに育ってきた今の「箱入り」日本人は、不確かな情報で多くの人を惑わせ、またワクチンのない時代に戻らせたいのでしょうか?感染して不幸な目にあった人は、誰を恨めばいいのでしょう。

今年、恐れていた事が実際に起こっています。ニュースでも盛んに報じられている風疹の大流行です。風疹は、特に妊娠初期に妊婦が感染した場合、先天性風疹症候群が大きな問題となります。効果的な治療法はなく、ワクチンによる予防が唯一の方法ともいえます。妊婦だけでなく、大人が感染すると関節炎、血小板減少性紫斑病(1/3,000~5,000人)を合併する可能性があるほか、急性脳炎を起こす(1/4,000~6,000人)ことがあり、極めてまれに重篤な状態になることもあります。

現在、34歳以上の男性は定期予防接種を受けておらず、また25~33歳の男女は、法律の変わり目のために予防接種率が低くなっています。この働き盛りの世代が風疹の予防接種率が低く、いま風疹感染が広がっています。自分のパートナーのためだけでなく、周りの、そして日本の妊娠可能な女性達のために、風疹や麻疹の予防接種をしっかり受けた記憶がない方は、男女問わずに麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)を受けてもらいたいと思います。ちなみに、妊娠中のワクチン接種はできないこと、風疹や麻疹のワクチン接種後は2ヶ月間の避妊が必要です。女性の方は妊娠する前に、できるだけ早めにワクチン接種をしてください。

人類の歴史上,予防接種ほど「命を救う」技術はありません。この技術のおかげで世界中で何百万、いや何千万の人が救われたことでしょう。しかし皮肉なことに,このすぐれた予防接種のおかげで重篤な後遺症を残したり死亡したりする人を間近に目にする機会が減って,人々の感染症に対する恐怖が失われてしまいました。そのため感染して病気になるさまざまなリスクのほうがはるかに大きいにもかかわらず、「副作用が怖い」とか、「予防接種で人工的な免疫を獲得するよりも自然の感染がいい」などと言い予防接種を拒否する人が絶えないため、結局は病気の感染から守ることができず、いまだに毎年感染して不幸な結果になる人が絶えないのです。

あえて言いましょう。安易に接種拒否を掲げている人たちは、感染してしまった人たちに面と向かって同じ事が言えるのでしょうか?

宗田 聡
産婦人科医
プロフィール
茨城県出身。医師、医学博士。専門は、産婦人科医(周産期医療、出生前診断、胎児医学、遺伝医学、メンタルヘルス、医療倫理、プライマリケア、医療IT、女性医学)。日本産科婦人科学会認定医・指導医、臨床遺伝学認定医・指導医、認定産業医・スポーツ医、アメリカ人類遺伝学会(ACMG)上級会員(Fellow)
 母校の大学病院で講師として臨床医療・教育・研究に関わり、留学後に幅広い医療、特に女性の心とカラダの健康を総合的にサポートする医療を理想として、地域周産期センター長を歴任後、都内で都市型かかりつけ医のクリニックを開業。
 日英論文多数、専門書(翻訳)執筆にも定評があり、一般誌でも「Anecan」など様々な雑誌で女性の健康に関する記事を多数執筆。著書には、「産後ママの心と体をケアする本」「産後うつ病ガイドブック」「ニューイングランド周産期マニュアル第二版」など。