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心臓外科の魅力

2013年1月11日

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「心臓外科医」は、TVドラマ、映画や漫画でよくネタになり、挙げるときりがありません。また「スーパードクター」「神の手」と称されてTVに出るような医師も心臓外科医が多いです。

それらを見て「カッコイイ!」と思う人も多いかもしれませんが「現実は?」というと…。

心臓の手術は、時間がかかる手術が多く、長い手術であれば1日がかりで手術をすることもあります。トイレにも行かず(これはよく聞かれますが、緊張感のためか不思議と行きたくなることはあまりありません)、何時間も立ちっぱなしで行います。大変な手術であれば、止血に時間がかかることがありますが、血が止まるまで何時間でも、時には何十時間でも手術を続けます。

また、患者さんが都合よく日中に具合が悪くなるとは限らず、緊急手術の必要があれば夜中でもすぐに手術をやります。

手術が終わっても、具合が悪く瀕死の状態であれば、昼夜関係なく集中治療室のベッドの横につきっきりになり、そのまま椅子で寝るということもあります。研修時代は、上級医が座っている後ろで、指示にすぐに対応するためにすぐ後に立っているように言われ、立ったまま寝るワザを身につけたりもしました(苦笑)。

研修時代の話をすれば、当直は一番多いときは2日に1回で、その間の日に手術が長引いたりすると帰れず、帰れない日が続いて家の鍵を紛失し、大家さんに家の鍵を受け取りに行く時間もなく、結局2週間以上家に帰らないこともありました。

また、心臓の手術や治療は命に直結し、薬を使う、器械を動かすなど、かなりの知識を必要とします。研修時代の指導は厳しく、蹴られる、突き飛ばされるなんてことも多々ありました(が、それは今は本当に有り難いことだったと思っており、先輩の先生方には感謝しています)。

しかし、どうしてそんなこと乗り越え、耐えて、心臓外科医を続けてこれたのだろう?
そして、なぜ私は心臓外科医を選び、今もやり続けたいと思っているのだろう??

外科は心臓外科に限らず「きつい、汚い、厳しい」の「ザ・3K職場」です。週平均80時間超の過酷な労働環境、手術のリスク、増える医療訴訟、高い専門医のハードルと不十分なトレーニング環境で、深刻化する若手の外科医離れ。
でも、それでもやり続けたい「心臓外科の魅力」って一体なんだろう?と私なりに考えてみました。

心臓外科医の魅力として「何かを取り除く」のではなく、壊れたところを「再建する」というクリエイティビティ、心臓を止めて手術をするというダイナミックさ、が挙げられます。ただ、ここからはあくまで私見ですが、もっと大きな魅力は次の2つではないかと思います。

ひとつは「劇的ビフォーアフター」です。

私の専門の先天性心疾患であれば、チアノーゼがあるために、血液の中の酸素が足りず顔色が青白く、紫色のくちびるをした子供が、手術をするとほっぺが赤くなり、赤いくちびるになります。

心臓が悪いために、母乳やミルクを飲んでいる途中で苦しくなって十分に飲めず、体重が増えなかった赤ちゃんが、手術が終わると今までを取り戻すかのように一気飲みし、みるみる大きくなる姿を見ると、本当にうれしくなります。

心臓に穴があいていることに長年気づかれず、手術をしたあとに「ずっと冷え性だと思っていたら、心臓のせいだったんですね!手足がポカポカして眠れないぐらいです」と話して下さった方もいました。

心臓はクルマのエンジンのようなものなので、(もともとの病気にもよりますが)故障していたエンジンがよくなるように、手術によって劇的によくなることが多々あります。それを目の当たりにすると、純粋にとてもうれしいものです。

もうひとつの大きな魅力は「ハイリスク・ハイリターン」ではないでしょうか?

心臓の手術はリスクが高く、手術の説明をするのにも様々なリスクや合併症の話に1時間以上かかり、聞いているとだんだん「手術をしないほうがいんじゃないか…」と思うぐらい厳しいお話をします。もともと重症であればあるほど、手術はハイリスクになります。また急に具合が悪くなって「手術をするしか助かる方法はない」という状況だと、更にリスクは高まります。

でも、患者さんが歩いて笑顔で帰っていく姿、「元気になりました!」と言って外来に来られる姿を見ると、本当にうれしいものです。

そして、これは外科医だけの話ではないですが、何よりも、患者さんや家族からの「ありがとうございました!」の一言が本当にうれしいです。この一言で、瀕死の状態で来られて夜中に緊急手術をしたことも、寝ずにベッドの横で悩み、祈るような気持ちで治療にあたったことも、大変だったことの全てが吹っ飛びます。そして「また頑張ろう」という最大の原動力になるのです。

「よい医療」は地域や社会が育むものだと思います。

病院にお世話になることは少ないに越したことはないですが、もしも病院にお世話になることがあって、病気がよくなった時は、一言だけ「ありがとう」と言って頂けると、ホントに、ホントにうれしいです!

立石実
東京女子医科大学 心臓血管外科
プロフィール
熊本大学医学部卒業。同年東京女子医科大学日本心臓血圧研究所心臓血管外科入局。中野佼成病院、聖隷浜松病院、富山県立中央病院、京都府立医科大学に出向。2009年~現職。専門医資格:心臓血管外科専門医、外科専門医、循環器専門医
著書
こどもの心臓病と手術