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生殖医療にICは足りているか

2012年5月24日

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はじめまして、産婦人科医の宗田 聡(そうだ・さとし)と申します。

筑波大を卒業した後、大学院の遺伝医学研究室に入り、長年出生前診断・胎児医学、遺伝医学、
メンタルヘルス、医療倫理の研究にかかわってきました。
当時日本ではあまり盛んではなかった遺伝子診断、出生前診断をテーマとし、その後タフツ大学に留学しまして、
この分野の世界的権威であるビアンキ教授に師事しました。帰国後は母校で講師をし、茨城県の周産期医療センター長もやりました。2 年間務めた後、広尾でこの4月まで女性向け全般の総合クリニックの院長をやっておりましたが、今はプータローで、毎朝スタバでゆったりと充電期間を過ごしております(笑)
まあ、スタバにいるのは本当ですが、実は今、新しい形のレディスクリニックを開業すべく準備をしているところです。

http://www.hiroo-ladies.com/

著書もいくつか出させていただきましたが、周産期医療の経験に基づいて、産後ママのメンタルに関するものが多いでしょうか。
産後うつ病の翻訳本を出したこともあります。

 

http://www.amazon.co.jp/宗田-聡/e/B005LN0EOI

手前味噌になって恐縮ですが、不妊治療の技術面から遺伝カウンセリングや妊婦さんのメンタルケアといった、
「お産にかかわるトータルなプロ」としての経験を積んできた自負はあります。
産科医の数が減り続ける一方、治療に関する要求が高まり続ける日本のこの状況の中にあって、
私の知識と経験がお役に立てることがあればと考え続ける日々です。
定期的にこの「医心」の場で、新しい視点や問題提起ができればと思っています。
日本の生殖医療、周産期医療の環境の変化に身を投じてきた私がいまいちばん感じていることは、
海外にくらべて遅れてきたこの分野の治療技術の普及が進む一方、その技術を受け入れるための環境整備や
患者さんへのケア(教育も含む)の体勢づくりがあまりにも遅れている、ということです。
ニーズ、特に不妊治療に関する患者さんへの対応が急ピッチに進んできた一方で
(私が当初研究していた着床前診断が学会で条件付きで認められたのは2005年です)、
AIDという不妊治療やNT検査などの出生前検査に関する、必要な情報の患者さんへの不開示や知識不足、
説明不足の医師の対応などもみられます。

http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=44283

少し乱暴な言い方かも知れませんが、技術はある程度普及したが、生命倫理の複雑な事情もあいまって、
医師も患者もその運用をどうしていいのか、持て余しているように感じられます。
医師は「治療の道」を提示しますが、その道を進んだらその後人生にどういう可能性があるか、そこまでは提示しない。
具体的に言ってしまうとAIDの可能性は言うが、それで生まれた子供たちとどう暮らしていけばいいのかは言わない。
また、一部の医師がNT検査で厚みがありますね、とは言うがその検査の信憑性についてまでは伝えず、よく考えてくださいと言う医師もいる。
確かに医師は治療のプロであるだけで人生のメンターではないですし、そこまで責任負えないよと言われればそうかもしれません。
しかしなんのために患者さんが医院に訪れるのかを考えれば、逆に無責任でいることも難しいのではないでしょうか。
先日テレビで報じられて、医師としては「え、そうなの?」という感じですが、
一般的には卵子が老化するということすら伝えられていないことが実状なのです。

http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3158_all.html

治療自体が認められていない(制度としてない)こともありますが、どうしても子供が欲しい患者さんが
そのリスクをあまり知らず、突っ走ってしまうということもあるでしょう。

http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=58392

少子化にあえぐ日本にとって、生殖医療は極めて重要です。ハードの医療技術が受け入れられるためには、
ソフトである周辺環境の整備も同等以上に重要だと考えています。
治療を受けることで不幸になる、そういったことが常態化してはならないと思います。
それを食い止めるのも、医師としての役割ではないでしょうか。

宗田 聡
産婦人科医
プロフィール
茨城県出身。医師、医学博士。専門は、産婦人科医(周産期医療、出生前診断、胎児医学、遺伝医学、メンタルヘルス、医療倫理、プライマリケア、医療IT、女性医学)。日本産科婦人科学会認定医・指導医、臨床遺伝学認定医・指導医、認定産業医・スポーツ医、アメリカ人類遺伝学会(ACMG)上級会員(Fellow)
 母校の大学病院で講師として臨床医療・教育・研究に関わり、留学後に幅広い医療、特に女性の心とカラダの健康を総合的にサポートする医療を理想として、地域周産期センター長を歴任後、都内で都市型かかりつけ医のクリニックを開業。
 日英論文多数、専門書(翻訳)執筆にも定評があり、一般誌でも「Anecan」など様々な雑誌で女性の健康に関する記事を多数執筆。著書には、「産後ママの心と体をケアする本」「産後うつ病ガイドブック」「ニューイングランド周産期マニュアル第二版」など。